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旅の記録、宿泊先や行程とか

大沢温泉 湯治屋 宮沢賢治ゆかりの湯治宿に泊まってきた Part 1/2

湯治宿に泊まる

東北地方といえば、ある場所に長期滞在して温泉療養を行う「湯治」の文化が現代でもなお残っているところです。

そういう旅館には自炊する場所だとかが備えられていたりして、要は一泊だけでなく何泊もすることが前提になっている。時間がとれない現代人にとってはなんか遠い存在に思えてくるものの、確かに湯治を目的として東北を訪れる人は少なくありません。建物も、創業当時からあまり変わっていないところが数多くあって、自分のように建物目的の人間からしても、湯治宿は魅力あふれる宿です。

以前に泊まった高友旅館や藤三旅館も、思えばそんな目的で投宿した宿でした。

今回の舞台は岩手県。

FDAの時間の関係で、この日はそれほど散策時間が取れそうになかったため、空港がある花巻市からほど近い旅館に泊まることにしました。それが、かねてから訪れてみたかった大沢温泉 湯治屋です。

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大沢温泉の入り口

大沢温泉には、茅葺屋根が有名な菊水舘、高級宿で知られる山水閣と並び、自炊部としてこれまた有名な湯治屋の計3箇所の施設があります。

ただし、これらのうち菊水舘は3年ほど前から道の土砂崩れの関係で休館になっており、今現在で温泉に入ったり宿泊できたりするのは山水閣と湯治屋のみ。今回はどっちかというと建物がメインの宿泊であるため、湯治屋を選びました。

自分は電話での予約ですが、ネットでも予約できるようで(というかこっちの方が主流)、宿泊プランとかも詳しく載っているので一度確認してみるのがおすすめです。サイトの造りも現代的で見やすく、自分のブログにも見習いたいくらい。

湯治屋 | 岩手県花巻市 大沢温泉 公式ホームページ 【最低価格保証】

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坂を下っていくと、湯治屋の本館2階及び3階部分が見えてくる

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本館の奥に続くのが新館

さて、大沢温泉 湯治屋の歴史は古く、開湯はおよび1200年前とされています。江戸時代にかかれた絵にも大沢温泉の様子が書かれており、ずっと昔から湯治場として栄えてきたことが伺えます。

で、大沢温泉がある岩手県花巻市と切っても切り離せないのが宮沢賢治の存在。小さい頃から晩年に至るまで幾度となくここを訪れていたそうで、今回の旅程を一言で言い表すなら「宮沢賢治が愛した温泉を訪れた」ということになりますか。

他にも、高村光太郎や相田みつをなどの著名人も大沢温泉を訪れていて、特に相田みつをに関しては、大沢温泉の入り口にある「ゆ」の文字を書いた人物でもあります。なんか、自分でも知っているような人物ばかりでスケール感が大きい。

建物の方に話を移すと、宿として営業を始めたのは寛政年間(1789~1801年)ごろで、本館はその当時から使われているというのだから驚くのも無理はない。最低でも築210年ほどは経っており、しかも大きな改築を経ることなく今日まで営業されていて、自分もそこに泊まることができる。これはなんとも嬉しいことだ。

というわけで、早速投宿していきます。

部屋へ

まずは玄関口でロードバイクを止める場所を伺ったところ、本館2階(目の前にある建物)の玄関の右横に置かせていただきました。左横のスペースのほうが広いのですが、こっちはバイクを置くところになっているようです。

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玄関

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玄関の正面が帳場になっている

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玄関にあるポスト

そして、玄関入ってすぐの帳場で名前を告げ、今日泊まることになる部屋に案内していただきました。

流石に有名どころなだけあって、玄関や帳場には常に人がいたような気がします。特に帳場については貴重品預かり場(後述)も兼ねているため、係の人が3人ほど常駐していました。建物自体が広いため、必然的に宿泊する人数も多い=この時間は忙しくなるという感じです。

ちなみに、湯治屋へのチェックインは15時から可能です。館内を散策したり、温泉に入ったりすることを考えると投宿するのは早い時間がおすすめかなと思います。結構遅い時間に訪れていた人も何組かいましたが、逆に言うともう何回も来ていて慣れている人なのかも。

玄関周辺の構造としては、玄関を入って帳場の右が待合室、左が売店になっており、特に売店の方は21時まで開いているということもあって何度もお世話になりました。あと、建物の規模の割に靴箱が小さいと感じるかもしれませんが、宿泊客は自分の靴を自室まで持っていくことになります。なので、この靴箱は日帰り客用というわけですね。

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泊まったのは、中館3階の30号の客室

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客室と廊下を区切るのは襖戸のみというシンプルさ。広さも一人でちょうどいいくらい。

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その後は係の方の後をついていき、今日泊まることになる客室へ到着。

廊下から見える風景でなんとなく察していたものの、中に入ってびっくり。「旅館の一室」というどこか堅苦しいような要素はまるでなく、例えるなら実家のような安心感が広がっている。金を払って温泉宿に泊まりに来たというよりも、なんか親戚の家に一泊してます、と言っても信じてもらえそうなほどに素敵な空間だ。

畳敷き、壁の様子、押入れやすでに部屋の隅に置かれた布団、そして窓から入る木漏れ日。湯治宿で過ごす環境としてはパーフェクトすぎて、確かにこれなら何泊もしたくなってくるというものだと思います。

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館内見取り図。結構複雑なので最初は迷子になりそう。

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入れる温泉の一覧

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さて、ここで大沢温泉 湯治屋の宿泊形態をざっと書いてみると、以下のようになります。

  1. 設備については昔ながらの積立式で、自分が必要なものを「借りる」形
  2. 宿としての食事の提供はなく、館内の食事処を利用したり、自炊をするのが基本
  3. 客室に鍵はありません←ここ重要

一つずつ説明していきます。

必要な分だけ借りる

まず、湯治屋は基本的に宿泊者に客室のみを提供しており、これが基本となります。

なので布団を使うにも、浴衣を着るにもプラスでお金がかかります。今回は季節的に必要なかったけど、完全な夏だったら扇風機もいるだろうし、冬だったらこたつやファンヒーターもいると思います。そういうものについても、宿から借りる形で積立式にお金がプラスされていきます。料金については、上の写真に示している通り。寝具については持ち込みが可能です(持ち込む人はそんなにいないと思うけど)。

逆に言うと、基本料金がめちゃくちゃ安いんですよね。

自分の場合だと、布団一式と浴衣を借りて合計で¥3,500くらいとなって、普段自分が泊まるような旅館と比較すると激安そのもの。その他についても決して料金が高いというわけではないので、深く考える必要はないかと。

食事は自炊か「やはぎ」で

さっき湯治宿は自炊が基本と書きましたが、ここ湯治屋でも自炊が基本です。何泊もする場合だと自炊の方が圧倒的に安上がりになるし、花巻市街のスーパーで買い出しをして共同炊事場で調理をするのがよさげ。

自炊するのがめんどくさいという場合は、館内にある食事処「やはぎ」を利用するのがおすすめです。Part 2で述べますが、一品料理・定食・麺類・飲み物など豊富なメニューを取り揃えており、何も考えなくてもここに行けば満足の行く食事がとれることを保証します。ただ、何泊もする場合に「やはぎ」ばっかり行っていると高くついてしまうので、そういう人が自炊を選択するという感じですね。

客室には鍵がないよ

その他の特徴としては、なにぶん古い施設なので音が丸聞こえだったり、振動がよく響いたりしますが、一番気をつけなくてはいけないのがこれだと思います。

部屋に鍵がないので、ちょっと温泉に行ったり、食事しに出かけたりする場合には留意してください。

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内側からかけられる鍵はあるが…。

一応鍵はあるんですけど、襖戸にかけられる鍵としてこのようなネジ式タイプが設けられています。この鍵は内側からくるくると回して襖戸をロックすることはできるものの、外側から施錠することができません。

なので、貴重品は常に持ち歩くか、もしくは帳場に預けましょう。帳場には基本的に係の方がいるので、その方に預ければ対になった番号のプレートをもらえます。

木造旅館の良さが溢れる館内

そんなわけで、温泉に入りに行く前に館内を一通り歩いてみることにしました。

館内の構造としては、玄関があったのが本館で、そこから奥に向かうに従って新館、中館(自分が泊まっているとこ)、上館と続きます。そして、大沢温泉の温泉である「露天風呂 大沢の湯」があるのが上館のさらに奥。これ以外にも建物は入り組んでいるので、とにかく実際に訪れてみないとその全容が掴めない。

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本館を正面から

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待合室。机は小さくて持ち運びがしやすく、割と自由に動かせるようでした

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奥に見えるのは本館3階への階段

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帳場横から本館右奥方向を見る

まずは本館の玄関に戻ってきて、ここから散策スタート。

帳場の横にある待合室はこんな感じで、かなり広いです。

ただ、この待合室は日帰り客用というイメージが強く、そのため常に人で埋まっているというようではありませんでした。考えてみれば、宿泊客は温泉に入った後は自室に戻ることになるので、本館方面に来る機会がそんなにありません。

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本館3階。客室のみがあるシンプルな造り

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本館の釘隠し

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本館から新館・中館方面を眺める

そのまま待合室を奥に進み、本館2階から3階へ移動。

基本的に、湯治屋の建物においては本館2階や温泉、食事処を除くとほとんどの部屋が客室になっています。しかも自分が泊まっている中館30号と同じく、廊下から襖戸や障子戸を開ければ即室内という昔ながらの構造でした。なので、廊下を歩く際には歩き方に気をつけたほうがいいですね。

襖戸や障子戸をなんとなく想像してほしいんですけど、これは「一応空間的に仕切りがある」程度のもので、防音性はハナから存在すらしていません。中の音が丸聞こえだし、なんなら室内のどの位置に人間がいるのかも普通に認識できるレベルです。そういうこともあって、宿としては人を選ぶのかなと思います。もっとも、それが嫌な人はここが選択肢にすら入らないと思うけど。

で、本館3階と新館2階部分はいわゆる回り廊下になっていて、外周沿いに廊下が走っており、客室はその廊下の内側にあります。戸を開ければすぐ正面に外の風景が広がっているので、例えば冬なんかは見応えのある部屋じゃないかな。

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続いては本館2階へ下り、帳場と売店を経由して新館方面へ向かってみる。

売店にはカップ麺やつまみ、おみやげ類などが揃っているほか、飲み物やアイスの品揃えが特によかったです。ちょっと喉が渇いたので冷たい飲み物をと思った際にも、気軽に行くことができるので重宝すること間違いなし。

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売店を過ぎると分岐があり、左へ進めば新館方面へ、右へ進めば別の宿泊棟(若葉荘)と、内湯である「薬師の湯」があります。

さっき書いた「大沢の湯」には洗い場がないので、流れとしてはその前に身体を洗う目的でこの薬師の湯か、もしくは隣にある山水閣の温泉に向かうことになります。というか、湯治屋に泊まるだけで山水閣の温泉にも入ることができるので、結構お得感がありますね。

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新館へ

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新館の1階は「やはぎ」が占めている。向こうに見えているのが本館。

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「やはぎ」の前の廊下

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で、左へ進んで新館へ。

新館の1階には「やはぎ」があり、夕方以降はここで食事を取る人で結構混んでました。ただし、ここに限らず廊下の幅が思いのほか狭いので、向こうから来る人がいる場合は途中で待ったほうが安全です。

ちなみに、「やはぎ」では夕食のほかに朝食もとることができますが、朝食は完全予約制になっています。しかもチェックインの際に予約するかどうかを決める形になっているので、予め朝食をどうするか決めてから訪れるのがよさげ。

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新館2階

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新館から中館を眺める。中央やや左が自分が泊まっている30号の客室。

そして、そこから階段で上に上がった2階部分はこんな様子です。

本館3階との違いは、すぐそこに木が生い茂っていて新緑がきれいな点。本館はどっちかというと川に近い場所に建てられている一方で、新館は斜面に近いところにあります。なので、こんな風に新緑越しの陽光が降り注いでいてなんとも爽やかでした。

加えて、新館2階は客室数も6部屋のみと少なく、比較的静かなように思えました。

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中館へ

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右が新館、左奥が本館。向こう側に見えるのが山水閣。

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中館3階の廊下

お次は、新館から中館へとやってきました。

二人以上で泊まるような広めの客室が占めている本館や新館と異なり、中館はどちらかというと一人客用のこじんまりとした客室のみで構成されています。その分客室の面積も少なくなっているため、客室の密集度としては高め。

この日はロードバイクで訪れた自分のほかに、バイク旅をしていると思われる人が数人いました。

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川の向こう側に菊水舘が見える

で、自分の部屋を通り過ぎて上館方面に向かうと見えるのが、現在は休業中の菊水舘です。

休業中と書いてますが詳しい再開日時は決まっておらず、今ではギャラリーとして開放されている様子。菊水舘の温泉はかなり評判が良く、これを目当てに比較的料金が安い湯治屋に泊まる人も多かったそう(湯治屋に泊まると、菊水舘の温泉にも入れます)。いつか再開してくれることを願うしかないです。

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その後は中館2階に下ってから新館方面にUターンし、再度階段を上がって自室へと帰ってきました。

いやー…普通に館内を歩くだけでもかなり広いですね。客室が大部分なだけに込み入った散策は控えましたが、それでも全体的に鄙びた感じがしているのは歩いていて楽しい。木造建築なのはもちろんのことですが、あまり手を加えていない当時のままの建物、という点が個人的にグッと来ました。

あとは、なんといっても客室の渋さがイイ。

湯治の際に何泊もするとなると、その時間の多くを過ごすことになる客室の居心地の良さは非常に重要になってくる。その客室はといえばさっき載せたように、ただそこにいるだけで「安心感」を得られる素晴らしさがあるから心配することはなにもない。

なんというか、次第のこの客室がまるで自分の城みたいな風に思えてくるんですよね。今回は一泊だけのはずなのに、ずっと長い時間をここで過ごしてきたかのような思い入れが湧いてくるというか。

というわけで、Part 2に続きます。