- Part 1:頭ヶ島~青砂ヶ浦~矢堅目~蛤浜
- Part 2:堂崎天主堂~半泊教会~高浜~大瀬崎灯台
- Part 3:荒川温泉~久賀島 旧五輪教会堂
むくり。
今日は昨日よりもさらに早い時間に起床し、のそのそと準備をする。目的は午前6時発のフェリーに乗るためで、これを逃すと今日は福江島に移動するだけで一日が終わってしまう羽目になる。
ロードバイク同伴で五島列島の島間を移動するのは大変というのを前回書いたけど、中通島から福江島に移動するのも例外ではないです。でも実は博多から夜行で福江島を目指す航路があって、それを利用すれば早い時間に福江島に到着することが可能です。
フェリーで福江島へ
有川港から7kmほど走ったところにある青方港に到着。
そのフェリーは福江島に向かう前に五島列島の中通島や奈留島に寄港するダイヤになっていて、中通島の港はここ青方港となります。昨夜の宿泊地からそんなに離れてなかったのでよかった。
この情報も一昨日くらいに仕入れた情報で、これを知らなかったら福江島に17時くらいに着く予定でした。今日も天気がいいらしいので、それだとちょっともったいない。
船内には博多からの夜行組が寝るスペースがほとんどで、我々のようなその日組のためのスペースはそれほど多くない。でも乗れただけで御の字だし、乗ってからはひたすら海を眺めて朝を待ちました。
驚いたのが、福江島に通学してるっぽい学生もこのフェリーに乗っているということ。毎日これに乗船しているんだとすればかなり大変だろう。
中通島と隣の若松島の間くらいで日の出の時間を迎える。
旅先で拝む朝日というものはいつだって特別なものだけど、それが船上ともなれば格別の一言。こうやって甲板に立っていてももう寒くはない季節だし、思い切ってずっと船外に出ていてよかった。
船内の客はほぼ全員が爆睡していたため、朝に照らされる島々を眺めていたのは自分だけっぽい。かなりの速度で走っていくフェリーの上で、視界の左右を流れていく風景がこの静かな時間帯に合っている。やはり船旅は好きだ。
若松島を離れるとしばらくは周りに海しかない海域を進み、その次にフェリーが寄港したのは奈留島。
今回はここには立ち寄りませんでしたが、ここもまたロードバイクで回るにちょうど良さげな広さです。江上天主堂という有名な教会や海水浴場もあり、今の時期だけでなくこれからが徐々に人で溢れそうな感じがしました。
あと、奈留島にフェリーが寄せていって着岸し、そこから客が乗り込んでまた岸を離れるまでのちょっとした時間がなんか好き。
今まで乗ったことのあるフェリーはほとんどがある港と港をつなぐ単純な航路で、今回のように複数の港に寄る形ではなかったからです。こういうフェリーは観光客だけでなく、地域の人にとっても重要な交通手段。その一部を垣間見た気がして朝から気分がよくなった。
朝の時間は比較的あっという間に過ぎ去って、割と時間あるから仮眠するかと思う間もなく福江島に到着。
今回の行程のメインと考えていた福江島を朝早くから散策できるのは非常にありがたい。
福江島を走る
堂崎天主堂
今回走ることになるルートは、ざっくりいうと福江島の北側です。福江港から海岸線沿いに反時計回りに走って、荒川温泉に宿泊するというのが大まかな行程。その他については時間や気分次第で決めることにしました。
福江港周辺は五島列島の中で一番栄えている地域で、中通島以上に様々な店が集まっている。少なくとも福江島を走る上では不便に感じることはないと断言できるくらいで、離島といえども旅しやすい環境といえると思います。
港周辺は今までとは比べ物にならないくらいに交通量が増えるので驚いた。
でも繁華街から離れると走っているのは観光客のレンタカーと地元の方の車くらいで至って快適。しかも長崎の人はロードバイクを追い越すときにかなり距離を開けてくれるので安心でした。予想以上に交通マナーがいい。
福江島で最初に目指すことになるのは、入江の近くに位置する堂崎天主堂です。
この教会までの道のりは中通島に比べるとかなり楽で、県道162号を海沿いにただ走っていればOK。福江島自体が比較的平坦なので、ロードバイクで気持ちよく走れました。
堂崎天主堂に到着。
ここの地形的な特徴としては、教会付近の海が穏やかなこと。集落と海との高低差がない上に入り組んだ入江みたいな感じになっていて、風が強いこの日も波は比較的穏やかでした。その海も割りと浅めなので綺麗さがよく視認できます。
教会の少し手前に駐車場やトイレがあって、ここから教会まで歩いて向かう形になります。
堂崎天主堂は五島列島を代表する教会の一つで、福江島のみならず五島列島全体で一番古い歴史があります。一番古いとは言葉の通りで、明治時代のキリスト教禁教令廃止以降に五島列島で最初に建てられた聖堂。五島列島の教会を語る上ではここは外せない。
最初に着任した宣教師によって木造の教会がまず建てられ、その後後任の宣教師によって約30年後に赤レンガ造りの教会堂が建てられました。
外側の壁は赤レンガで、内装は木造。内部は資料館のように様々な展示が並べられ、現在は教会というよりは元教会という立ち位置です。ただ教会としての用途がまったくないわけではなく、ミサや儀式、葬儀等に使われているようでした。
昨日見た教会にも言えることだけど、レンガで形作られた教会は直線と曲線の調和が本当に美しいと思う。
大部分は直線でキチッと構成されている中で、例えばアーチ部分は丁寧な建築で丸みを帯びるように作られている。そのせいでどこか厳かで神聖な雰囲気があって、この地に深く根付いている感が強調されているような気もしてくる。これは木造建築にはなかなか見られない特徴だと思います。
レンガ建築って木造建築のデメリットである火災への弱さを克服できるだけでなく、曲線を取り入れたお洒落な外観にできるというメリットがある。それでいて耐久年数は100年以上あったり、自然素材で建物に優しいぬくもりが感じられたりと素敵な点は多い。
当時の技術でこれをつくるのは相当大変だったことを考えると、このレンガと木材の組合せを眺めるだけでも正直満足できるレベル。そのレンガも一様な色ではなくて場所によって色が異なっていて、心惹かれる外観だ。
屋内には布教時代から迫害を経て復活にいたる信仰の歴史が展示されていて、事前情報なしにここへ来てもこの場で大枠が学習できるほど充実してました。外観も洋だし、そこで学べる内容も日本史上における洋の部分ばかりで楽しい。
この洋風な感じ、これこそ自分が今回の旅に求めていたものだ。
そして、教会が建っているのは海や山に囲まれた自然豊かな場所。ここへ来るまでの道中も含めて、この静かな場に身を置いているだけで心が休まってくる。かつての教徒も今と同じ環境で祈りを捧げたと思うと感慨深いです。
やはり五島列島の教会は、それが建っている場所とセットで味わうのが良い。ましてやロードバイクで訪れているのだからなおさらで、道中楽しんでいくのがベストだと感じた。
ここでちょっとロードバイクで走ることへの後押しをすると、福江島内にはサイクルラックがあります。
観光名所のどこにでも置かれているというわけではないけど確かに置いてあって、しかも驚いたのはフロアポンプがセットになっていること。タイヤの空気圧が気になった際の調整が超絶楽です。
滞在中はレンタルサイクルで走っている人をちらほら見かけたので、利用者のためのものだと思います。逆にロードバイクで走っている人は全く見かけませんでした…。
半泊教会
続いて訪れたのは、堂崎天主堂からそれほど離れていない半泊教会というところ。
場所的には福江島の北東に位置していて、ここまで向かうことにしました。
福江島の北東の方は家屋や標識等の人工的な要素がありつつも、人の気配があまりないという特異な印象の場所が多かったです。
普通に考えれば日中は出かけているだけだろうけど、観光客が散策する場所というわけでもない。半泊教会までの道のりはそういう場所から更に奥深い山々へと突入していって、さっきまでは海ばかりだったのに途端に山要素が出てきました。
半泊教会は、正直に言うと車やバイクで行く方がいいかなと思います。
一度山の上に出てから短距離で一気に海沿いまで標高を下げる上に、路面がアスファルトではなくコンクリートになってます。これがなかなかにきつかった。でも車だと対向車が来たら終了するほど道が狭いので、やっぱり自転車の方が楽かもしれない。
半泊教会に到着。
山の上から降り立った場所は波の音以外は何も聞こえず、かといって潮風に晒されているのに塩っぽくない心地よさがある。そんな集落の片隅に建っている教会です。
半泊地区は弾圧から逃れるために大村藩領から五島へやってきた数家族が上陸した土地で、全員が住むには少し狭かったためにそのうちの半数がここに留まったことから半泊(はんとまり)と呼ばれているそうです。今でもここに住まわれている方の家屋が少しあるほか、廃校になったと思われる学校の跡がありました。
教会は1922年(大正11年)に完成し、アイルランドからの浄財が建設資金にあてられました。
建物は素朴な木材を使用した木造建築ですが、台風から教会を守るために海側には半泊海岸の石を集めた防風石垣が築かれています。今でも大切に維持管理が行われており、静寂な集落にふさわしい穏やかな空気が漂っていました。
教会というよりは民家のようで、教会の象徴である十字架も比較的細い気がします。その様子を見ていると素朴な生活を営みながら信仰を守り続けてきた方々の姿が見えるような気がして、しばらくここで佇んでました。
そんな半泊教会の内部はこんな感じで、中に入るとその雰囲気の変わりように驚いてしまう。
壁や天井、柱に至るまですべてが白と水色の美しい色彩で、ここにいるだけで気分が清々しい。他の教会に比べると建物は簡素かもしれないけど、ここには確かな優しさ、穏やかさがある。
ここでももちろんお祈りをして、扉の向こう側から聞こえてくる海の音を聴きながら時間を過ごしてました。こういうひとときの中で、時間を気にするのは性に合わない。
高浜海水浴場
この後はまたヒルクライムをして県道162号に戻り、福江島の北側を走りながら西側を目指していきました。
県道から国道へ移り、水ノ浦教会を経て道は大部分を海に面しながら続いていく。
このあたりは交通量が本当に少なくて、しかも海との距離感が連続的に変化しながら進んでいくのがとても気持ちいいです。途中には川なのか海なのかよく分からないところもあったりして、ここが本当に島なのかあやふやになることもしばしば。
あと、中通島と明確に異なるのが平地が多いこと。走っていく中では田畑に多く出会うことができた上に、道そのものも走りやすくて快適でした。
宿である荒川温泉までの道中で寄り道したのが、福江島屈指の海水浴場である高浜海水浴場。
遠浅の海に透明度抜群のエメラルドグリーンの海水、そして頭上には快晴の青空。ここで泳がないでどこで泳ぐんだという感じのベストコンディションの中で、ここにいるのは自分を含めてたった数人だけ。夏になるとめちゃくちゃ混むんだろうなと思いつつ、一足早い夏をほぼ自分だけで感じることができてとても嬉しい。
写真だとうまく伝わらないけど実際の風景は息を呑むような美しさで、写真を撮るのもしばし忘れて砂浜に降りたりしてました。こういう海に出会ってしまうとどうしても立ち寄りたくなるし、何よりも五島の海が目の前にあるのだから近くまで行ってみなければ損。足をつけてみるとその冷たさが直に感じられて、ここまで来てよかったと心から思う。
五島の海の色って本州の海とはやはり異なる上に、沖縄の海と比べても違いがあります。沖縄の海はもう少しエメラルドグリーンが濃いけど、ここでは若干薄めになっているのがわかりました。ここは場所的に中間地点にあるので、それが海の色にも反映されているんでしょうか。
そういえば沖縄の海は砂の色が白いおかげであの色に見えているってどこかで聞いた気がするので、適度に白い砂浜がこの色を表しているのかも。
その後は荒川温泉まで一直線に向かい、今日泊まる宿にチェックイン。
荒川温泉は福江からまっすぐ西へ進んだところにある地区で、その名の通り温泉が湧いているところです。五島列島で温泉は実はここにしかなく、途中で立ち寄るにも宿泊するにも便利な地点。今回はここに一泊することにしました。
ここからはもう旅館で昼寝でもしようかと思ったけど、結構時間が余っているのでもうちょっと足を伸ばすことにしました。目指したのは、福江島の西の端にある大瀬崎灯台です。
大瀬崎灯台
荒川から大瀬崎灯台までは往復40kmほどと、夕食の時間までには十分戻ってこられる距離。道も大部分が平坦なので気楽な気持ちで走っていくことができました。
また、島の中央付近から端部へと走っていくということは人の気配が徐々になくなっていくということ。道中ではぽつぽつと家があるくらいで、自分が端っこの方へと近づいていっていることが実感できる。
特に大宝地区から先、玉之浦までの道はもう完全に果ての地みたいな雰囲気がありました。
県道50号から灯台が見える展望台からは割りとがっつりとした上りが続き、気がつけば大瀬崎灯台展望台に到着。
展望台からもう少し行った先に最終の駐車場があって、そこから灯台までは徒歩で往復1時間ほど。でも、この展望台からの眺めだけで十分満足できると思います。
その景色がこれ。
この最果て感が何よりもすごい。これは大瀬崎灯台でしか味わえないものだと強く思う。眼下に見える断崖絶壁の先に小さな灯台が見え、まるでここだけ異世界のような地形が広がっている。ダイナミックでこんなに綺麗に地層がはっきりと見られるなんて、ここまで上ってきた甲斐があるというもの。
一般的な灯台は、それを見ることのできる場所からの高低差がそこまでないところがほとんどだと思います。灯台が建っている=半島の岬ということを踏まえても、自分の視点よりも大きくかけ離れたところにあるわけではない。
それが、大瀬崎灯台はご覧の通りのように遥か下に見える。展望台からの眺めだけでも十分楽しめるとはこのことで、あそこまで下って上るのは結構大変だろうな。自分はここからの景色だけで満腹でした。
ここは福江島の最西端かつ標高が高い場所なので、東側には島の主だった地形が視認できました。しかも天気は快晴だし、よけいに遠くまで見えるのがなかなかの達成感も得られる。いいね。
ところで、福江島の桜は満開を少し過ぎたくらいで見頃になっていました。
本州ではもうとっくに葉桜になってしまっているところ、場所を変えれば開花状況も変わる。ここに桜が咲いていることや、それがいい感じの咲き具合になっていることが二重で嬉しい。
帰り道では道中にあった井持浦教会に寄りつつ、周囲の風景に目を移らせていく。
五島列島は意外にも各所に自動販売機があるので、夏場でも水分補給に困ることはないと思います。人が少ない土地だと自動販売機がある種の生命線になる部分があるので、これは走る上で良いポイントだと感じました。
大宝地区では弘法大師・空海が帰朝の際に滞在し、「西の高野山」と呼ばれている大宝寺に参拝。
ここまで訪れてきたのが教会ばかりだったこともあり、久しぶりに仏教の存在を感じられた場所でもあります。周りの集落はほとんどが木造家屋で、所々がカラフルに彩られていて散策しがいがあるところでした。
有名所を回るのもいいけど、こういう何でもない路地裏を散策するのも結構好き。気分的には旅先でレストランに行かずに地元のローカルスーパーに行くみたいな感じで、身体の力を抜いて散策できるというか。
集落には廃校跡地があったり、昔は港湾組合の建物だったと思わしき廃墟があったり。宿に戻るまでの間、ここでしばらく風を感じながら歩き回ってました。
荒川温泉に泊まる
その後は、荒川温泉の竹乃屋旅館に無事に帰還。宿泊記録は別記事でまとめています。
五島列島の旅も、もう終盤。Part 3に続きます。
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