今回は、島根県奥出雲の山間部にある斐乃上温泉 民宿たなべに泊まってきました。
島根県は本当に温泉に恵まれている県だと常々思っていて、温泉津温泉や有福温泉、それに三瓶山の周りに点在する数々の温泉をはじめとして、全国的にも有名な温泉が多いです。
しかも温泉自体の効能が優れていることだけに留まらず、全体的に鄙びた要素が見られたり温泉周辺がとても静かだったりと、要は一日の終わりをゆったりと過ごしたいときに向いている場所ばかり。そういう意味で個人的には温泉目当ての旅をしたいと考えたとき、島根県は候補に挙がりやすかったりします。
今回訪問した斐乃上温泉もまさにそのうちの一つで、周りにあるのは山と川のみという環境の良さが特徴。大自然の中で余計な物音は一切しません。温泉へ向かうまでの道中も奥出雲ならではの田園風景が中心で、新緑に囲まれた水田を散策した後に温泉で精神を癒やしたいという目的から宿泊を決めました。
館内散策
民宿たなべが位置しているのは、日本最古の歴史書である「古事記」のヤマタノオロチ伝説で知られる船通山の山麓。この神話の舞台にほど近い斐乃上温泉は古来から人々に親しまれており、今では日本三大美肌の湯として知られています。
温泉は船通山の登山口へ向かう道中にあるので、宿泊以外にも登山終わりに汗を流したいという場合の利用が便利です。今回自分が到着したのはチェックイン開始時間からすぐでしたが、周辺には登山客と思われる車がたくさん止まってました。
屋外
島根県奥出雲町から鳥取県日南町を通る県道108号の途中に看板があって、そこを曲がって約2kmほど川を遡っていったところが斐乃上温泉です。
この川は先ほど述べた船通山に源を発しており、やがては宍道湖に流入する斐伊川という一級河川です。斐伊川は下流域ではとてつもなく大きな川である一方で、ほぼ源流に近いこの付近ではいたって穏やかな流れをしていました。
この日は出雲市を出発してずっとこの斐伊川と行程をともにしていて、よく考えてみればこの日の前日にロードバイクで走っていたのが宍道湖や中海といった斐伊川の最下流部でした。もっと言うとその前に旅していたのは斐伊川が最終的に流れ出る日本海、そこに浮かぶ隠岐諸島そのもの。
形としては数日をかけて日本海から斐伊川の河口へ至り、そして今日はその源流に至ろうとしている。そう考えると、まったく別の場所を旅していると思いきや意外なところで繋がりがあった事に気がついて、一人でいい気分になってました。
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水の流れというものは広範囲に渡っていて、斐伊川もその例に違わず広大であることは理解している。頭の中で今回の島根旅が全体を通して一本に繋がったように思えて、これには何か運命的なものを感じずにはいられない。
というわけで早速投宿です。
駐車場については、宿泊者・日帰り客を含めて十分な台数を止められるほど広いです。
駐車場の脇にある階段を上っていくと玄関前に着きます。
階段の脇には木々が立ち並んでいて、この季節だと新緑がとてもきれいでした。日中の気温がそれほど高くなく、夜は適度に涼しくなってくれる。やっぱりあちこちに出かけるのはこの初夏の時期が一番だなと感じます。
建物の奥側には宿の方の駐車場や洗濯物干しスペースがあります。
今回は、ここの邪魔にならないところにロードバイクを置かせていただきました。
屋内
それでは屋内へ。
玄関を入ってすぐ左側に帳場があり、さらにその奥には厨房があります。宿の方は普段は厨房にいらっしゃるようで、自分が玄関に入ると奥から出てこられました。
玄関の正面が食事処や温泉へと繋がっており、2階への階段はその左側に。建物としては比較的新しく、木を使った明るめの内装が周囲の環境にマッチしています。
玄関の奥側は囲炉裏付きの広間になっていて、夕食や朝食はこちらでいただく形になります。一番奥のスペースにも囲炉裏があって、ここにある窓からは屋外の様子がよく見えました。
食事処だけあって業務用の冷蔵庫が置かれていて、中でたくさんの地酒が冷えているのが見えたり、テレビがあったり本棚があったりと寛ぐにあたって申し分ない感じ。なお食事処は2階部分が吹き抜けになっているので、2階客室前の廊下からここを見下ろすことができます。
広間の横には襖戸で区切られた二間続きの畳部屋があり、囲炉裏スペースに加えてこちらも食事場所として使われていました。
1グループの人数が多い場合等はここを客室として使うことがあるようですが、現在では1日に宿泊可能な人数を最大4部屋に限定しているとのことなので完全に食事用の部屋となっています。
なお民宿たなべでは昼食の提供も行っているらしく、その場合にもこれらのスペースを使うようです。
客室についてはすべて2階にあり、階段を上がって正面(建物正面から見て川側)に位置しています。
吹き抜け部分も含めて照明や窓の多さが目立ち、つまり館内が明るくて開放感があるということ。
ちょうど時間帯的に周囲が日光に照らされている中で、温かい陽光が窓から差し込んでくるのが気持ちいい。過ごしやすい気候も相まってとてもリラックスできました。
今回泊まった部屋は6畳の広さがあり、設備としてはテレビやポット、金庫、エアコン等があります。特にエアコンがあるので、夏場の暑い時期でも問題ありません。全体的に壁は薄めなのでテレビの音量等には配慮が要ります。
廊下と客室との境は襖戸で、鍵については内鍵のみ。例えば温泉に入りに行っている間は部屋に鍵をかけることができないため、心配なら金庫に貴重品を入れる必要があります。
部屋の外側はちょっとしたベランダになっているので、奥出雲の美味しい空気を味わうのにちょうどいい感じです。ただしベランダは横の客室と繋がっているため、隣の宿泊者と鉢合わせすることがあるかも。
あと、布団は宿泊者が好きなタイミングで各自で敷く形式です。自分の場合は夕食後だと途端に敷くのが面倒になるので、投宿してから温泉に入りに行くまでにささっと敷いておきました。
以上が、民宿たなべの大まかな全体像です。
旅館とはまた異なる民宿という名前の宿の通りで、雰囲気としては堅苦しいところがなくまるで古民家のようなイメージ。基本的に宿の方は滞在中にあれこれ干渉してくることはなく、適度に自分が過ごしやすいように過ごすスタイルの宿だといえます。
食事についても時間になったら各自が階下に降りていく形で特に呼びかけはなく、なんというか良い意味で縛られない体験をすることができる。
時間を忘れるという言葉があるけど、こういう隠れ家的な宿で翌日までダラダラ過ごすというのもたまにはいい。
温泉
続いては温泉へ。
温泉は建物の奥側に男女別に分かれており、左側が男湯、右側が女湯となります。
美人の湯と評されるだけあって、泉質はpH9.9のアルカリ性単純温泉(低張性アルカリ性低温泉)。入るとヌルヌルした肌触りが心地よく、お湯というよりも化粧水に近い感触です。源泉温度26℃で加温されており、温度は比較的ぬるめなので長湯ができました。
アルカリ成分が脂の汚れを溶かす効果で、じっくりと入っているとお肌すべすべになること間違いなし。
内湯の外には露天風呂があります。
ぬるめの温度の温泉は露天風呂になるとさらに長湯に向いているシチュエーションとなり、特に気温が少し冷え込む夕方以降だと快適に入ることができました。5月といってもなんだかんだで昼間以外はそこそこ寒いので温泉に適しているといえます。
夕食~翌朝
こんな感じで温泉に入ったり、夕方に差し掛かって薄暗くなった周辺を散歩したりしながら時間を過ごす。すでに館内には宿泊者しかいないので気兼ねなく行動することができます。
ダラダラしてたらいつの間にか夕食の時間になったので1階に向かいました。
夕食の席は基本的にどこに座ってもいいようで、自分は例の囲炉裏のところに座って待ちました。
料理は一度出しではなく出来上がった順番に運ばれてくる形式で、つまり出来立てが食べられるということ。料理って温かいものは温かいうちに食べるのが一番美味しいので、このスタイルは個人的に助かります。
飲み物については出雲の地酒(玉鋼、深山の香、棚田五百万石など)に加えて焼酎やビールなど、ざっと見た感じ一通り揃っていました。今回は深山の香を注文。冷蔵庫でしっかり冷えているので更に美味しいのが嬉しい。
夕食の内容は抜群に美味いイワナの塩焼き、茶碗蒸し、イワナが入っている酢の物、ニジマスの刺し身、山菜の天ぷら、そば、そして奥出雲ならではの仁多米(おかわり自由)にニジマスのお吸い物という完璧な布陣。
どの料理も非常に丁寧に作られていてとても美味しく、しかも出来立てなのでなおさら酒も白米も進むという幸せ感があります。
特に〆にある仁多米が最高すぎて、一杯だけでは満足できなかったので二回おかわりをしました。どれくらい美味しかったのかというと最終的に仁多米を肴に日本酒を飲んでいたくらいで、これはもう仕方ない。
今日は朝からずっと奥出雲周辺の水田を巡る旅をしていて、その中では必然的に水田=米の存在を思わずにはいられない。その米というのが全国的にも有名なブランド米・仁多米なので、この日の夕食がずっと楽しみでした。
思惑通りお腹いっぱいになるまでそれを満喫できたというわけで、言うことありません。
夕食後はもう一度温泉に入りに行き、早目の時間に就寝。
特にやることがなくなれば自然と眠くなるあたり、この環境が自分に合っていると感じる。
翌朝は自然に目が覚め、朝風呂としてまず温泉に入ってから朝食となりました。
「どうせ何杯もおかわりするんやろ?」という宿の声が聞こえるかのように、各グループに仁多米のお櫃が置かれる朝食。昨日に引き続いて心から仁多米を味わってくれという思いが伝わってくる。
朝食のおかずは焼き加減が絶妙なニジマスや温泉卵、しんみりと身体に染み渡るお吸い物など、どれもが仁多米のお供として強力すぎるというのが正直な感想。今日はもうそんなに走らないのにおかわりが進んでしまう。
こんな感じで、民宿たなべでの一夜は終了。とても満足のいく滞在となりました。
おわりに
民宿たなべの良さは奥深い山の麓で静かに温泉に入れるというだけでなく、道中の景色の中で必ず目に入ってくる仁多米を心ゆくまで味わうことができるところにあると思います。
しかも米単独ですら美味しいのに、おかずや快適な温泉といった白米の消費を促進させる要素が密接に関わっていることも魅力の一つ。
たとえ事前知識がゼロだったとしても棚田が多い=米が有名であると思うはずだし、実際にその米を宿で味わって美味しさに感動するという流れを経て、ああやっぱりと納得がいく人も多いと思う。この日の行程は仁多米に始まり仁多米に終わった形になって、思い描いた通りの充実感が残りました。
おしまい。
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