- Part 1:宮崎~鵜戸神宮~日南
- Part 2:日南~都井岬~串間~志布志~都城
今回は、ロードバイクで宮崎県の沿岸部を中心に走ってきました。
前回やった山間部の高千穂ライドでは思いっきり山の中を走り、「八百万の神」を至るところで感じられる神秘的な雰囲気に心を動かされたのが記憶に新しい。前回が山だったので、じゃあ今度は海に行くかという単純な流れで行程を決めました。場所的にも高千穂は宮崎県の北部、今回は南部といい感じに対比になっていると思います。
予定の都合で日数は二泊三日に決め、初日は宮崎空港を出発して鵜戸神宮を参拝してから日南に宿泊。二日目は核心部である都井岬を訪れた後に沿岸部の串間や志布志を経由し、山間部の曽於へと至ります。最終日は都城から帰路につき、全体的に普段よりも無理のない走行距離にしました。
予定の中では目当てにしていた鄙びた宿に泊まることもできて、思い出深いライドになったというのが結論です。
炎天下の宮崎を走る
このライドは9月に実行したのですが、気がかりだったのが夏の暑さでした。本格的に暑い8月はもう過ぎ去っているものの、九州って日本の中でも気温が高いというイメージが強いです。
ましてや「南国」で有名な宮崎のことなので、一日の走行距離は短めにするのがベター。そういう意味でロードバイクで走る範囲を当初より狭め、行き先を限定しています。
まずはセントレアから飛行機に乗って宮崎空港へ。
空港から出た瞬間に思いっきり熱を感じてしまって、いきなり季節が8月に逆戻りしたかのようなシチュエーション。しかも気温だけではなく、南国をイメージさせるような植物が空港周辺の色んなところに生えています。代表的なのが宮崎県の県の木でもあるヤシの木で、これはもう宮崎県の滞在中に何度目にしたか覚えてないくらい。
宮崎県内には最北端の亜熱帯植物群落(青島)が存在しているほか、宮崎の旧国名である「日向」の名前のとおりに日照量がとても多いのが特徴です。そのため県全体に南国リゾートのような雰囲気が漂っていて、九州のほかの地域とは明らかに様相が異なりました。
この日の行程は至極シンプルで、宮崎市街を出発して国道220号を南下していきます。つまり左側には常に海が見える形になり、従って海沿いの町並みに多く出会うことができました。
宮崎県の沖合に位置する日向灘には太平洋からやってきた黒潮が流れており、この暖かい潮の流れによって温暖な気候が生まれています。栄養豊富な海流ということでもちろん漁業も盛んだし、何が言いたいのかというとその土地の特徴に根ざした生活圏が形成されているということ。
単なる海の近くであればこんなにも家屋は多くなく、いかに宮崎県が海に恵まれているかを理解できる。
ロードバイク的な感想としては、宮崎や鹿児島ナンバーの車ははかなりスペースをとって抜かしてくれるので安心して走れました。
反対車線まで大きくはみ出すのは他の地域ではあんまり遭遇せず、自転車に乗っている側からすればストレスフリーなことこの上ない。こういうちょっとした体験がその地域を再訪するかどうかのきっかけになったりします。
夏の日差しと4m/sの向かい風を身に感じながら南下を続けていく。いつの間にか周りからは民家は少なくなり、山と海の自然ばかりになりました。
ふと上を見上げれば場所によっては雲が目立ちますが、海上には雲が一切ないにも関わらず山側はそこそこ曇っていました。夏の海沿いはこういう感じで昼過ぎから雨になることが多く、自分が今走っているところが紛れもない夏であることを味わっている。
そんな感じで走っていくと左側の海、これの海床がまるで層のように規則正しく形成されている状況に遭遇しました。これは数百万年前に深海に堆積した宮崎層群と呼ばれる地層で、傾斜しながら隆起してきたことによってこのように見えるみたいです(正式名称は「青島の隆起海床と奇形波蝕痕(鬼の洗濯板)」)。
しばらくの間はずっと海に面した国道を走るということで同じような景色ばかりかなと思っていたところ、思わず二度見してしまうような特異な地形が目に入ってくる。視界の中に人工物が少ないことも相まって、意図せずとも宮崎の自然に着目する形になりました。
絶壁に建つ神社、鵜戸神宮へ参拝
国道220号から県道433号へと入り、これから向かうのは鵜戸神宮という宮崎県南で最も有名な神社です。宮崎では「鵜戸さん」の愛称で親しまれていることに加え、安産や育児、夫婦円満に効力があるため古くから信仰を集めている歴史ある古社。それが鵜戸神宮です。
本殿は日向灘に面した断崖の中腹にあり、参拝するには参道である石段を下る必要があることから全国的にも珍しい「下り宮」に属しています。一般的な神社は階段を上って参拝するのに対して、鵜戸神宮ではその逆というわけですね。
ちなみに鵜戸神宮の神使(現世への使者)はうさぎで、境内にはたくさんのうさぎが祀られていたりします。今年2023年の干支は卯(うさぎ)だし、これは鵜戸神宮参拝によって今後何か良いことがあるかもしれない。
日本全国に数え切れないほど存在する「神社」には一つとして同じような属性のものはなく、それは祀っている神だけではなく立地だったり賑やかさだったり、周囲の環境などによって千差万別です。
その中でもとりわけ立地が印象的な神社は個人的に好きで、鵜戸神宮に関しては断崖絶壁に建っているという点に惹かれました。
鵜戸神宮は陸地から海へ向かって突き出した半島の先にあって、観光用の駐車場は鵜戸漁港に近い「観光駐車場」と社務所に近い「参拝者駐車場」があります。
前者は一度歩行者用のトンネルまで上がり、それから下ることになるので少々疲れます。車で手っ取り早く行きたいのなら歩行距離が短くて済む参拝者駐車場に止めるのがよさげ。
社務所付近に着きました。ロードバイクで走るのよりも階段を上り下りするほうが疲れる気がする…。
社務所や二の鳥居がある周辺が鵜戸神宮の入り口ともいえる場所であり、参拝者トイレや土産物屋、カフェなどが集まっています。この日はとにかく暑かったのでカフェの人気が相当なもので、参拝が終わった人から順番にカフェに吸い込まれているくらいの勢い。
気になるところは多いものの、あれこれ他のことをやるのは参拝をしてからということで先を目指します。
「下り宮」ということで、神門から本殿までの間に上りはありません。
参道を歩いていく中で感じたこととしては、常に海が見えるということに加えて視界が広く感じられるということ。一般的な神社って境内に巨木が生えていることが多くて、頭上から覆いかぶさってくるような迫力があります。しかし鵜戸神宮は海沿いにあるのでむしろ植物は少なく、海や空の"青色"が眩しく感じられる。
もちろん参道の途中にも当然のようにヤシの木がある…のですが、これも神社では見かけないものなので新鮮味が強い。
そして、観光雑誌などでよく見かけるアングルの場所に到着。
参道は千鳥橋を境にして大きく右側に逸れており、視界の下に見えるのは高低差がある広場と朱色の手すり、そして向こう側には荒波が押し寄せる断崖と日向灘の途方のない風景。ここまでの道中が平面の移動だっただけに、すべてがダイナミックに思える風景だ。
何よりも手前の人工物と奥の大自然との比較が見事で、本当にスケール感が大きい場所だと驚きました。さっき青色の話をしたけど、水の青色、木々の緑色、そして神社特有の朱色が明確に別れていてコントラスト的なメリハリもあります。
自然の大きさを思い知ると同時に、こんな場所に神社を建てようと思った構想も凄い。圧倒的な自然の前では人々は神の存在を感じるので、ここに神社があるのもある意味で納得です。
石段を下りきると右側に広場が、そして左側の洞窟内部に本殿があります。
てっきり本殿も青空の下に鎮座していると思っていたのが、実際には洞窟の中だったので予想外でした。洞窟の中に建物を建てるのは暗いし狭いしで至難の業だと思う。
通路は本殿を中心にしてぐるっと一周することができ、さっきまでの明るさとは真逆の暗さを味わったりしてみたり。よく考えてみれば陸地と海の境界が断崖になっているのだから、波の侵食によって洞窟が形作られるのも納得がいきます。
洞窟の中ってある種の安心感があって、特に暗い方に自分がいて明るい方を向いていると特にそう思います(猫が狭いところに入り込むイメージ)。上の一番下の写真がまさにそれで、なんか洞窟で生活していた原始的な記憶が呼び覚まされそうでした。
そして洞窟から屋外へと出てみれば、ただただ広いとしか理解できない日向灘の海が広がっている。
海の近くの風景はそれこそ場所によって全く異なるものですが、今までの道中を見てきて鵜戸神宮に到着した身としては活力に満ち溢れた荒々しさを感じます。瀬戸内海の穏やかな海とは対照的な激しさがあり、同じ「温暖」という気候でもこれほどの差があるから本当に不思議だ。
地図だけ見てそこがそういう場所なのか、どういう道なのかを想像するのは限度があるもの。より詳しく知りたいという気持ちがあるならまずは現地に行ってみるべきだし、私も実際に鵜戸神宮を訪問して海の違いを学べたと思います。
参拝後は再度国道220号に合流し、相変わらずの強風に吹かれながら南に向かっていく。今日の宿はもう遠くなく、時間にも余裕があるので気持ち的に楽になれました。
日向灘を臨む町並み
日南市の中心部である油津に到着した後は、遅めの昼食を探しながらちょっと散策をすることに決定。油津は今日の行程で通った中では比較的大きい町であり、店の数も多かったです。
ここでちょっと言いたいこととして、ロードバイクで走っていると「町」の存在がとにかくありがたいと感じることがある。
例えばこういう都市から遠く離れた地を通る場合、町並み→何もない区間→町並みという順番で状況が刻々と変化していく。何もない区間を通って心細くなった後で町に到着するとこれ以上なく安心できたりして、なんか一種のRPGをやっているような気分。
町を訪れることで、食べ物や飲み物の補給以外にも精神的な安心感を得ることができる。車を使って短時間かつ疲労なく移動できる場合だとぼやけてしまいがちなものの、移動手段が徒歩しかなかった昔の旅人もこんな気分だったんだろうなと思います。
国道ではない細い路地に入っていった先には個人的に好きな風景が多く、しかも交通量が少ないのでぼんやり考え事をするのに向いている。(何しろあと10kmくらいで宿なので思いっきり道草を食っています)
海の様相も明らかにさっきとは異なっていて、まあ海が穏やかな場所に人が集まった結果として町が形成されたので当然といえば当然。目の前の景色をただ受け取るんではなくて、歴史とか成り立ちとかに少し思いを馳せてみるのも案外楽しいです。
で、待ちに待った昼食タイム。
時間的に周辺の飲食店はほとんど営業しておらず昼食難民になるところでしたが、はぜきん茶屋という昔ながらのうどん・そば屋さんが営業していたのでここにしました。気温が高いのでさっぱりしたざる蕎麦を注文し、昼下がりの静寂が漂う中でのひとときを味わってみる。
やっぱりせっかく旅先に来ているのだから、全国どこでも同じ味であるチェーン店へ入るのは避けたいもの。その土地にしかない味を提供しているところだったり、昔からずっと営業している店に入るのが自分は好きです。
その後は一度内陸部を走り、大堂津近くで再度海沿いに出てから再度国道を走りました。
途中では日南線の線路が見える一角があり、浅瀬の中を突っ切るようにして線路が通っている様子が美しい。実に平穏な空気が流れているのが分かります。
そして、南郷に位置する今日の宿に無事に到着。宿のすぐ近くには明日の目的地である「都井岬」が示された青看板があり、明日に向けて気分を高めてからの投宿となりました。
今日の宿は廊下からドアを開けて入ったらすぐに客室というシンプルさで、宿自体も自分のような一人客をメインにしているような建物です。近くにはAコープや飲食店があるので食べ物に困ることはなく、直前に予約したにしては十分すぎる環境で特に不満はありません。
夕食をとった後はすることがないので、さっさと布団に入って寝ました。
今日は走行距離こそ短いものの、季節が流れて一度は収まったと思われた暑さを再度味わった日。流石に一日走れば身体の方も慣れてくれたと思われ、明日のライドが少しでも楽になればいいな。
で、翌朝。
起きてすぐに天気を確認したところ、昨日に引き続いて今日も快晴になりそうな予感でとても運がいい。その日が良い一日になるかどうかは朝の時点の天気によるところが大きい中で、朝から晴れているとテンション上がります。
夏場は昼から雨になるというケースが多いものの、振り返ってみれば行程中に一度も雨に降られることはなかった。突発的に決めたにしてはうまく行き過ぎてて嬉しすぎる。
というわけで、Part 2へ続きます。
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