【五十猛町大浦~石見銀山大森~湯抱温泉~三瓶山】「石州瓦屋根」ロードバイクで山陰石見地方の静かな町並みを巡ってきた

今回は、ロードバイクで島根県の大田市から美郷町周辺を走ってきました。

そもそもの旅の目的は、ずっと前に予約しておいた湯抱温泉 中村旅館に宿泊すること。しかし島根県まで移動するのに時間がかかることに加えて天気予報の結果もあまり芳しくないということで、道中については当初そんなに重要視してませんでした。

しかしいざ当日になってみると予想外に青空が拝めそうな予感がし、宿までの行程を急遽ロードで移動するすることに。普段から状況が変化しそうならそれに応じた行動を取るようにしているけど、今回はその方針がうまくハマってくれました。

流れとしては大田市中心部を出発して五十猛町周辺を散策し、その後は山方面に舵を切って石見銀山~粕淵を散策してから宿に投宿。翌日は三瓶山周辺を走ってスタート地点に戻ってくる形です。振り返ってみれば、散策メインならちょうどいい感じのライドになりました。

それでは出発。

もくじ

石州瓦 五十猛町大浦の町並み

島根県を訪問する上で忘れてはならないのが、山陰特有の要素である石州瓦を含んだ町並みの風景です。

特にここがどこですという風に場所を説明しなくても、視界の中に石州瓦が入ってくるだけで山陰だということが一目で理解できる。

しかもそういう場所は一つの集落として町並みが形成されているところが多く、宿までの散策としては申し分ない。近代になってからは日本中の風景は結構似たりよったりな部分が増えているものの、山陰には古い町並みが多く残っているという事実はもっと知られるべきだと思う。

というわけで国道9号に従って南下していき、途中で五十猛町という町に到着しました。

五十猛町大浦

いや、まずはこの快晴の青空に出会えただけでもありがたいというほかない。

天気予報だったら完全に曇りだったのが、蓋を開けてみれば梅雨時にも関わらずこんな良い天気。しかも今回の行程は数ヶ月前に宿を予約したという関係上、天候については完全に運任せでした。これは幸先がいい。


島根県は東西に長く伸びた形をしており、大きく分けると日本海に面した側と、広島県等に近い山間部に分類することができます。もちろんそのどちらにも石州瓦の風景自体は存在する中で、雰囲気については場所によって「海」と「山」で全く異なっている。

今回の行程を海と山のいずれかに偏らせなかった理由はここにあって、つまり島根県の魅力的な地形を両方とも満喫していきたいということ。そもそも自分は飽きっぽい性格なので、宿が山の中にあるのなら道中は海を見てみたかった。

今回訪問した五十猛町大浦の町並みは国道9号からさらに日本海側に移動した一角に存在していて、集落の近くには砂浜や漁港があります。ちょっと歩いたところにある大岬灯台に続く高台(と墓地)からは集落を一望でき、これがまた素敵すぎた。

正定寺前の道
高台の墓地からの眺め

これよ。

これを見に来た自分としてはもう最高すぎる。

半島のように突き出した陸地には家屋が密集しており、その左側には砂浜、右側には湾という非対称な地形。そして手前には無数の墓石が並んでいたりと、景色の中にメリハリがありすぎて面白い場所です。

極めつけは頭上から降り注ぐ強烈な日光と、頬を撫でていく湿気を含んだ生暖かい風。昨日までは雨が降っていたようで、これから到来する本格的な夏を先取りしたかのような蒸し暑さがある。なんというか「夏休み」って感じだ。

海にとても近いところに居るので地形としては起伏が少なくて、空の青さと海の青さの割合がとても大きいのが分かる。そのど真ん中に目が覚めるような石州瓦の色が混ざっているので、コントラストの差も相まって色彩が豊かです。

例えば夏休みが始まったばかりの平日の昼下がりに、こんな場所でジュースを飲みながら過ごしてみたい。

接近してくる猫

高台からの絶景を味わった後、次の場所へ向かうために集落内を歩いていると唐突に猫と遭遇。首輪があるので近くの家猫のようですが、最初は寝転がっていたのが私を発見した途端に近寄ってきました。

知らない土地でたまたま遭遇した猫がとってくるアクションは二択だと思っていて、遠目から様子を伺うかフレンドリーに近寄ってくるかのどちらか。最初は怪訝な顔をしていて後から寄ってくるケースはあんまりない気がする。

今回の場合は思いっきり後者で、写真を撮ろうとしていたらスリスリされました。ここが天国だったか…。

あまりにも無防備すぎる件

当初は撫でさせてくれるだけだと思っていたのが、目の前でゴロンゴロンしてお腹まで見せてくる無防備っぷり。

時間帯的にはまだ昼前で、そんな中で集落の中の小道で横になって昼寝をしている猫を眺めていると時間を忘れそうになる。これほど平和的な光景もなかなかないと思うし、余計な物音がしない町並みと猫は相性が良すぎる。

集落内には高低差があったり日陰になっているところが多いので、猫的にも散歩がしやすそうです。

今まで山陰の日本海沿いを走ってきた感想としては、こういう感じのこじんまりとした漁村集落が比較的多いのが特徴だと感じました。

でもそういう集落って単純に国道等の大きい道路を走っているだけでは出会うことができなくて、たぶん自分以外は通らないであろうと思うくらいの細い道を走っていった先にあったりする(特に島根半島が顕著)。つまり交通量が少ないぶん、集落本来の静けさだったり古びた要素だったりがスッと自分の中に入ってくる。

映画館で映画を見るようなイメージで、目の前の景色に集中するためにはそれなりの舞台が重要になる。ロードバイクによる移動だけではなく徒歩での散策も含めて、本当に山陰には自分好みの場所が多すぎて嬉しい。

石見銀山で産業の足跡を巡る

続いては国道9号から県道31号へと入り、海から内陸部へと移動していく。

訪れたのは、島根県の観光地といえばここ!というくらいに有名な石見銀山。かつて銀を採掘していた日本最大の坑道跡(龍源寺間歩)は日本の歴史上とても重要な存在ですが、坑道に繋がる道中に形成された大森の町並みも自分的には興味を惹かれたところでした。

大森には江戸時代の武家屋敷や代官所跡、それに石見銀山の繁栄とともに栄えた商人の住宅などの建造物が並んでいます。しかも町並みそのものは今も残されていて、住民たちも普通に生活されているという貴重な場所。最近は古民家風のカフェや店が新しくできたりと、かつての銀山跡は現代に適応した新しい町へと変わっていっている状況です。

石見銀山そのものは過去にも訪問したことがあって、当時の思い出を振り返る目的で今回再訪してみました。

江戸時代の産業を支えた大森の町並みはこんな感じで、山と山との間にいきなり家屋がたくさん登場してくる様子は壮観の一言。

別に何をするわけでもない(まだお腹空いていない)けど、自分としてはただ単純に町の中を歩いているだけでも楽しくなってくる。町並みの本通り、通称大森銀山重要伝統的建造物群保存地区は車の往来が制限されていることもあって、静かな中で雰囲気に浸ることができます。

石見銀山周辺はかなり特殊な空気が漂っているところだと思っていて、観光地としての側面のほかに現在進行系で生活が営まれている町としての側面がある。民家に加えて各種の店が並んでいるけど、それでいて確かな静けさがあるのが良いところ。

観光客が押し寄せるスポットというよりは、ここがどういう場所なのかを理解している人が少人数で訪れるスポットという立ち位置だと思います。実際、今回も適度な人の集まり具合でした。

清水谷製錬所跡

石見銀山は2007年に石見銀山遺跡とその文化的景観として世界遺産に登録されており、登録にあたって大きな決め手となったのが「自然と人間の共生」です。

石見銀山では16~17世紀にかけて銀が大量に採掘し、この一帯だけで採掘、精錬、運搬、搬出という産業の一連の流れをすべて網羅しています。その中では銀を精錬する過程で大量の木材が使用されるものの、石見銀山においては計画的に植林を同時に進めることで、豊かな森林を現代に残すことに成功しているとのこと。

さっき大森の町並みを山と山との間に登場してくると書いたけど、周囲を見渡してみると一面の木々や森が覆いかぶさってくるようだ。時期的にも新緑が美しくて、ここで当時最先端の産業が推し進められていたことがすぐには想像できないくらいです。

一度訪れたことがあるスポットなので当初は軽く見て回るつもりだったのが、結果的には思ったよりも長居をしてました。

自分が好きな要素で溢れているところは、何度目の訪問だとしても素敵な時間が過ごせる。考えてみれば単純な話だけど、この分なら次回来るときも新たな発見があるのかもしれない。

今回は昼食をとることがなかったので、お洒落なカフェとかでまったり過ごしてみたいです。


石見銀山を離れた後は道を一旦戻り、田園風景の中を抜ける道を走って国道375号に合流。

適度なアップダウンがありつつも交通量が皆無な道中はロードバイクで走るのには適していて、「山」まではいかない程度の丘陵部なら個人的には好きです。

粕淵

しばらく走った後は美郷町の中心部である粕淵で時間調節し、チェックイン可能時間ちょうどに湯抱温泉 中村旅館に到着。

旅をしていく中で「宿に何時に到着するのか」は人によってかなり差があるものの、自分はむしろ宿泊の方がメインなので早めの時間に着くことがほとんどです。逆に暗くなってから着くことは皆無で、まあ宿泊を重視しないライドメインの行程くらいかな。

翌日の行程を考慮すると朝の出発時間はそう遅くできないし、そういう状況下で滞在時間を増やしたいのなら到着を早くするのがベスト。この方針は今後も変わらないであろう。

で、中村旅館の宿泊記録は別記事でまとめています。

中村旅館は、近年稀に見るくらいに女将さん達の親切心を強く実感できた宿。投宿時から温泉の準備、夕食から朝食、そして出発時と、本当に居心地が良すぎて滞在時間があっという間でした。ここはすぐにでも再訪したいくらいに気に入ったので、冬にでも計画しておきます。

三瓶の温泉と山並み

宿泊から一夜明けたこの日の内容は大田市方面へ戻るだけですが、昨日走った道を戻ってもつまらないので東にある三瓶山方面へ。

県道40号を北上して三瓶山の山麓に到着したところで、ちょっと日帰り温泉に立ち寄ることにします。

三瓶温泉 亀の湯

訪れたのは三瓶温泉の亀の湯という温泉です。

実は三瓶山周辺には湯抱温泉のようなこじんまりとした温泉が点在しており、いずれも温泉通の人にとっては外すことのできない場所ばかり。例えば三瓶山の南側にはこの三瓶温泉や千原温泉、北側には小屋原温泉や池田ラジウム鉱泉などがあります。これも島根県の特徴の一つだけど、温泉一つとってもその効能の高さには驚かされる。

で、今回の訪問時に亀の湯を訪問したのにはちゃんと理由がありました。何故かというと単純に温泉の温度が低い(これも湯抱温泉と同じ)ので、気温が高い時期でないと楽しめないからです。冬場だとちょっと厳しいかな。

三瓶温泉 亀の湯・鶴の湯

亀の湯の屋内はこんな感じで、百年以上の歴史がある特徴的な湯船が一つのみというシンプル感。洗い場も何もなく、まさに地元の方専用のような雰囲気がありました。料金は300円。

ナトリウム塩化物泉(低張性・弱酸性・低温泉)、かつ約37℃の源泉がそのままバシャバシャと掛け流されている様子は壮観の一言ですが、なおのこと良かったのは自分が入っている間は湯船を独占することができたということ。地元の方や観光客が訪れない絶妙な時間を意図せず狙えたというわけで、これは運が良い。

ぱっと見だと奥に見える管から湯船にお湯が注がれているように見えるものの、実際には湯船の真ん中にある方の管から湧き出すようにして湯が供給されています。これはポンプで上げているわけではなく自噴だそうで、マグマの力で温められた温泉を時間に堪能できるのは幸せというほかない。

粕淵から亀の湯までは地味な上りがずっと続いていて身体が温まっていたこともあって、この温水プールのような温湯がとても気持ちよかった。

三瓶山 西の原
野生の亀と遭遇
帰路で食べたイカ丼

温泉でまったり寛いだ後は三瓶山ヒルクライムを継続し、西の原を経由してスタート地点に無事帰還しました。

この時期の三瓶山周辺は気候的に過ごしやすく、特に西の原は昼寝スポットとしてちょうどいいです。原っぱに座り込んでいると途端に眠気が襲ってくるレベルで、さっきの亀の湯の温泉効果が早速出ている。

そんなこんなで、今回の島根旅は終了。

振り返ってみればライドというよりはサイクリング重点な行程だったものの、自分が理想とするロードバイクの使い方としてはそっちの方が言葉として似合っている。道中での散策、鄙びた宿での宿泊といったように、明確な目的地は宿のみという自由な方針で今後もやっていきたい。

季節が変われば見える風景も異なってくるので、島根県はまた別の時期に訪問したいです。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

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