北温泉旅館 宿泊記 栃木県奥那須の古びた木造湯治旅館で天狗と混浴してきた

今回は、栃木県那須町にある北温泉旅館に泊まってきました。

この旅館に泊まろうと思った経緯は単純で、例の大きな天狗面がかかっている「天狗の湯」に入りたかったからです。ひと目見たときからあのインパクトに圧倒されてしまって、今回念願の宿泊が叶いました。

北温泉旅館の歴史は古く、奈良時代の宝亀年間(770年)に、大天狗が日光山から出羽の国へ行く途中に発見したと言われています。天狗の面の由来はここにあるわけですね。
その後も温泉地として歴史を重ね、江戸時代には木版のパンフレットにも掲載されたほど。明治以前は源泉の岐路が多いことから岐多温泉と呼ばれたそうで、明治に入り漢字が統合されていく過程で北温泉となっていったと思われます(公式サイトより)。

現在の旅館は増改築を重ねており、江戸時代の安政5年(1858年)およそ160年前に建築した松の間をはじめとして伝統ある建物が残っています。映画「テルマエロマエ」のロケ地としても利用された経緯があって、映画や上戸彩のファンにも人気なのだとか。

那須町中心部から那須岳方面に向かう県道17号、その途中から分岐する細い道を通っていった先に広めの駐車場があり、ここから徒歩で400m程度の坂を下っていった先に旅館があります。

天気や季節によっては坂を上り下りするのがちょっと大変な上、周囲には特に施設がないので買い出しをする場合は事前にやっておいたほうが良さげです。あと携帯も圏外になります。

ちなみに今日の宿泊者は自分一人だけなので、気兼ねすることなく温泉を満喫することができました。

もくじ

外観

まずは外観から。

坂道を下っていくと広い場所に行き着き、正面方向に北温泉旅館の建物が、右手方向には温泉の一つである温泉プールが見えました。

正面玄関

温泉プール。かなりの広さがある。

北温泉旅館に到着してまず感じたことは、これほど大きな木造旅館を見るのは初めてだということ。

山奥に佇む一軒宿という大きな特徴がすでにあるにも関わらず、それが霞んでしまうような巨大な建物が目の前にそびえている。特に玄関入口両側の建物は3階建てになっているので高さがあり、なんかもう入る前から圧倒されてしまった。

建物としては奥側(山側)に続いているので玄関前からではその全容は一部しか把握できませんが、すでに十分すぎるほど広いことだけは分かります。しかもこの建物すべてが現役で使われているというのだから驚愕。

昔は食事の提供があったらしいけど、公式サイトにも書いてある通り現在では素泊まりのみとなっています。またアメニティもないので、必要なものは持参する必要があることに注意。浴衣やシーツについては別料金で借りることができ、今回はこれを利用しました。

一番上に見える建物が、温泉の一つである目の湯

向かって右側の棟(竹の間)の手前には坂道が続いており、隣りにある小さな川を見ながらちょっとした散歩が可能でした。

いやしかし、木造旅館+苔むした石段+木々という組み合わせが本当に琴線に触れるようでずっと眺めていたくなってしまう。木造旅館というだけでも貴重なのに、大きな棟がいくつも連続している様は今までに出会ったことがないレベル。

周囲で聞こえる音といえば、すぐ近くを流れている余笹川の音のみ。北温泉旅館全体が大自然に包まれている中で、これからこの旅館で一夜を過ごすのが楽しみで仕方ない。

あと、北温泉旅館には猫ちゃんが2匹います。

今回出会うことができたのは茶トラのまるちゃんで、よく玄関ロビー近くの図書室で昼寝をしてました。もう一匹の三毛のももちゃんについては残念ながら会えなかったので、できれば次の宿泊時に遭遇したい。

館内散策

玄関ロビー周辺

というわけでここから宿泊がスタート。

最初に北温泉旅館の客室について説明すると、建てられた時代ごとに以下の3つの部屋が存在しています。

  • 松の間…江戸時代安政の建物で最も古い。
  • 竹の間…明治の建物。
  • 梅の間…昭和の建物。

「間」という名称ですが正確に言えば「棟」で、それぞれの棟は建物内で自由に行き来することができます。部屋番号は松321のように間+番号という組み合わせになっているので分かりやすい。

館内には似たような部屋が多いので、自分が泊まる部屋番号くらいは覚えておくのがいいと思います。

館内図

北温泉旅館全体の見取り図は上記の通り。

玄関や帳場、ロビーがある場所を中心にして松の間、竹の間、梅の間が配置されており、それぞれの近くに温泉が分散しています。屋内は迷路のようになっているので一見すると迷いやすいように見えますが、配置としてはとても理解しやすい形。

今回は一番古い部屋に泊まりたかったこともあり、電話予約の際に松の間をお願いしておきました。

玄関の様子。

玄関を入ってすぐ右に日帰り温泉用の券売機やスリッパ置き場、左奥側に宿泊者用の靴箱があります。

玄関奥にあるのがロビーで、ソファが何個も置かれていて広さは十分。玄関やロビーからして天井が低く、古い造りであることを伺わせます。あと、玄関ロビー周辺でのみWiFiが利用できました。

水車の歯車を再利用したテーブル

ロビーの正面方向にはソファが置かれているのに対して、左方向には畳が敷いてある座敷があってここに座ることも可能。

それにしても、ロビー周辺に置かれているありとあらゆる品が本当に素敵だ。ここにあるのは昔使われていたような家具や調度品、農具、座布団や照明、時計等々…。建物自体が木造ということも相まって、この空間すべてが過去からそのままやってきたような感覚に陥ってしまった。

どの品もこの旅館で長い間使われてきたものであることは間違いないし、文化の保存という意味でも北温泉旅館は貴重な存在だと思います。

帳場

帳場は前面に開閉式の木戸がある形式で、営業時間外になるとここが閉じられて防犯になります。

帳場下の引き出しや木の格子等も、他ではあまり見ることがないタイプでした。このあたりも昔のまま変わっていないんだろうなと思います。

帳場の右横にはお土産品や菓子、酒類の販売所があり、必要ならここで購入しましょう。

動線としては帳場の左横から二方向に続いており、右へ進めば自販機や給湯場所を経て梅の間に行けます。

給湯場所は館内で飲むことができる水やお湯を確保する目的があって、部屋で飲む用のお湯などはここでポットに入れてから持っていく形でした。

左へ進むと図書室を経て松の間や竹の間、そして天狗の湯など旅館の奥側へと続いています。特に松の間に宿泊した場合は、玄関まで戻ってくる際にここを通ることになるので通行頻度は高め。

左の通路の先には、使い方すらよく分からないような農具がずらっと並べられていました。

ロビーでも同じことを感じたけど、本当に至るところに歴史的に貴重だと思われる品々が置かれています。冗談抜きに博物館なのかここは?と思ってしまうくらいに充実しているので、散策する道中で飽きるということがまったくありませんでした。

単純に今はもう使われなくなった道具類を保管しているんだと思いますが、こういう場所も今では少なくなっています…。

その横には休憩室兼図書室の部屋があって、中には漫画や雑誌類等がずらり。

例えば湯治で何泊もするというときには日中の過ごし方が重要になってくるし、ダラダラ部屋でのんびりしたい場合に心強い。後は単純に各部屋だと音が響いてしまうので、宿泊者同士で団らんしたりするときにもここが便利そうです。

今回の訪問時は、ここでずっとまるちゃんが寝てました。

しかもここを通るたびに寝ているのを見かけたので、基本的にまるちゃんの出没場所は玄関ロビー周辺のようです。

次はロビーの反対側へ。すぐ左に見えるのが靴箱です。

ここからは主に竹の間方面へと向かうことができるのと、あと階段の先がそのまま参道になっている湯前神社へ繋がる外階段があります。

階段の手前には建物の外を流れてきた源泉が注がれており、神社に参拝する前にはここで足を洗うようにとの掲示。

ここだけ切り取るとまるで屋外のようですが、北温泉旅館は屋内なのに屋外のような構造が随所に見られます。今自分がどっちにいるのか、たまに分からなくなる。

階段の左側には昭和天皇・皇后両陛下の写真。

那須には天皇皇后両陛下・皇族方の静養の場として使用されている御用邸があるので、もしかしたら北温泉旅館も一緒に訪問されたのかもしれません。

階段を上がった先の分岐の様子。

目の前にあるのが湯前神社へと続く参道ですが、雨の日などは神社まで向かうのが大変になるためか屋内にカランカランと鳴らすアレ(本坪や本坪鈴というらしい)や提灯、しめ縄等がありました。天候に関わらず気軽参拝できるのでこの形式は非常に便利。

参道の隣には仏様が祀られていて、旅館内に神社や仏様といった参拝する対象が複数存在しているのは珍しい気がする。どことなく厳かな雰囲気があります。

せっかくなので、サンダルに履き替えて湯前神社にお参りしました。屋外に出るとすぐに急な階段があり、20mほど上ると本殿があります。

参道そのものが旅館の建物から繋がっているために、上の方からは旅館の屋根を一望することができます。他の場所からはこうは見えないので、小雨が降る中を上ってきた甲斐があったというもの。

以上が、玄関ロビー周辺の様子です。

滞在中は各温泉に行く機会が多いと思うので、館内では玄関ロビー周辺を行き来する頻度は高いはず。温泉に入ったあとでしばらくまったりするのもいいし、普段はここで寝ていることが多いであろう猫ちゃんに遭遇できたらラッキーだしで個人的におすすめのスポットでした。

松の間

ここからは客室棟を散策していくことに。

まずは今回自分が泊まることになる部屋を含めて、一番古い松の間を歩いていきます。

帳場横の図書室を通って奥に進むと階段があり、ここから先が松の間の建物。

1つ目の階段の上には分岐が3つあり、左へ進めば湯前神社や竹の前へ、右の2つが松の間の客室へと繋がっています。右については建物の中を突っ切る廊下と、屋外に面した窓付きの廊下があってどっちを通ってもOK。

後者については片方の壁がまるで外壁のようになっていることから、昔はここは屋外だったっぽい。

屋外に面した廊下はこのようになっていて、そのまま奥に進むと男女別のトイレがあります。

こちらは廊下のすぐ下を床下暖房のように源泉が流れているため常に暖かく、特に冬だとかなり嬉しい。この源泉は最終的には玄関ロビー横の足洗い場に行き着くことになり、こういう水だったり温泉だったりの流れる経路が確保されているのがなんか好き。

松の間2階の廊下

トイレの先の客室(2階客室)の廊下は床が石でできており、客室は廊下の片方のみに配置されていました。壁については後から補修された跡が見え、独特の薄い紅色になっているのが分かります。

廊下と客室との境界は木製の引き戸で、踏込みを経て襖戸がある二段形式。引き戸の方には鍵がついているので、温泉等に出かけるときにも安心でした。

今回泊まったのはこの2階の客室のうち、一番奥側に位置する松321の部屋。広さは7.5畳あります。

江戸時代の建築ですが天井はそこまで低くなく、約2mあるので頭を打つ心配はありません。部屋内にはすでにポットが置かれていたほか、冷蔵庫もあるので素泊まり時の食材の保管もバッチリ。テレビについては1時間100円の有料制となっています。

建てられた時代が時代なのでエアコンなんてものはなく、扇風機もなし。ただ標高が高いことに加え、この日は夜間~翌朝まで大雨だったので暑く感じることはありませんでした。

お茶セットも、どこか歴史を感じる古さがあります。

布団は入口両側の押入れに入っているので、使いたくなったら自分で敷けばOK。滞在中はご主人も特に干渉してこないので、投宿後は基本的に何から何まで自分で行う形です。

部屋の造りにしろ旅館の経営方針にしろ、ここまで湯治を満喫できる旅館もなかなかあるものではない。部屋に至ってはシンプルイズベストを体現したかのような様相だし、ここに泊まれること自体が貴重です。

滞在する上での必要最小限のものは揃っているし、ここで何を食べてどう過ごすか、どんな体験をするかは自分次第。その自由度は相当に高く、人によって様々な選択肢があるのが北温泉旅館の良いところかな。

自炊室

松の間の突き当りの部屋(今回泊まった松321)のすぐ隣りには自炊室があり、ここには調理器具や電子レンジ、コンロ、ゴミ箱、コインロッカー等が揃っていました。

自炊室はここにしかないので、梅の間や竹の間に泊まっていたとしても自炊をする場合はここまで来る必要があります。食器も大きいものから小さいものまで一通りあり、ビールの栓抜きもあるので酒を飲む場合も問題なし。


後から振り返ってみると、松321の部屋は滞在する上で本当に便利な部屋でした。

なぜかというと自炊室や天狗の湯、それにトイレが目と鼻の先にあるので、行きたくなったタイミングで行くことができるのが一番の理由です。

特に天狗の湯は北温泉旅館を代表する温泉なので、せっかく泊まったのだから何回も入りに行きたいというのが自然な思考。そんな中で、温泉に入るために階段を上り下りしたり長い廊下を歩く必要がないのは嬉しい。

「宿泊時は天狗の湯に行く客で混む」という点も宿泊者が自分一人という状況では考える必要がなく、例えば客が少ない平日に泊まる場合は松の間に泊まるのが個人的におすすめです。利便性をとるか静音性をとるのかは判断が分かれるけど、今回泊まった際の状況下では松の間を選択して正解でした。

松321を割り当ててくれたご主人には感謝しかない。ありがとうございます。

自炊室の奥には3階へ向かう階段や洗面所があり、その奥が天狗の湯となります。

これで2階の散策は終了。続いては3階へ。

今回泊まった部屋から廊下の反対側、玄関ロビーへ向かう廊下の端に3階への階段がありました。

古い建物でありがちなめちゃくちゃ急な階段で、しかも一段が大きいので上り下りに苦労しました。様式としては下から上まで左方向にねじれている螺旋階段ですが、階段の外側が円形ではなく四角形の壁なのでこのような構造になっています。

見ての通り階段の左部分はほとんど梯子みたいになっており、これも江戸時代ならでは。

向かいに見えるのが竹の間

松の間3階の客室の様子。

部屋の広さが比較的同一だった2階に比べて、3階の客室は広い部屋もあれば狭い部屋もあって千差万別です。客室の入口も板戸だったりガラス戸だったり襖戸だったりするし、増築の過程でなかなかカオスなことになっている様子。

泊まる人数によらず快適さを得るためには複数の広さの部屋が必要になる中で、北温泉旅館はその点は非常にバリエーション豊かなので問題なし。気軽に湯治文化を体験できると思います。

部屋の位置によっては向こう側に竹の間が見えるところもあり、上手く言えないけどその眺めは唯一無二のもの。部屋から他の木造客室棟が見えるのはレアすぎるというほかない。ちょっと不思議な気分になったりしました。

数えるのも大変になるくらいに客室の数は多いものの、いずれの部屋も稼働状態にあるので掃除や整理は行き届いているようです。なので、どの客室に泊まったとしても満足はできるはず。

特に3階についてはこちらから指定しない限りはおそらく割り当てられないと思うので、比較的静かなところが良いのなら電話予約の際に相談してみるのが良さげ。

竹の間

竹の間は明治時代の建物で、湯前神社前の分岐を旅館正面方向に向かったところに位置しています。

廊下を直進していくと右に3階への階段があり、その階段を過ぎた先が2階の客室です。

基本的には松の間とそんなに違いはありませんが、広縁に相当する部分について、客室との高低差がありません。松の間では窓の下部分が一段高い造りになっていたのに対し、こちらはフラットになっています。その影響で、本来の部屋の広さ以上に奥行きを感じました。

3階へ続く階段の裏手には1階に下る方の階段があり、その先には卓球場があります。

温泉といえば(何故か)卓球を連想しますが、旅館内に卓球場があるのは驚き。

すぐ向こう側に見える松の間の客室

3階についてはこんな感じ。

松の間3階客室から見えた客室が上の写真の場所で、部屋の2面が窓になっているので日当たりがとても良いです。個人的にこの部屋が一番好きかもしれない。

以上が竹の間の紹介です。

あえて竹の間を選ぶ理由としては、やっぱり静かなことではないかと思います。竹の間の近くには女性限定の相の湯しかなく、他の客が頻繁に通る場所というわけではないです。

雰囲気は全体的に素敵ですがいかんせん木造旅館なので、音が気になる人は竹の間か、もしくは松の間3階の客室を選ぶのがおすすめ。ただし旅館側の管理の問題もあるので、具体的にどの部屋に泊まりたいという要望がどれほど通るのかは不明です。

梅の間

最後は梅の間の紹介。

昭和の時代に建てられた梅の間は玄関から右に進んだところにあり、北温泉旅館の中では一番新しい棟です。

温泉プールや相の湯、河原の湯(露天風呂)には最も近い場所にあるので行きやすいことに加え、宿泊時には天狗の湯からもっとも遠いので安眠しやすいのではと思います。今回は宿泊者が自分一人しかいなかったので関係ありませんでしたが、週末等で宿泊者が多くなる場合は松の間だと音が気になりそう。

梅の間への階段
梅の間の廊下

帳場左奥の階段から下に下っていくと大きめの廊下があり、梅の間はそこから右に行ったところにあります。

客室は1階と2階にあり、いずれも廊下との境界はドア。昭和なので全体的に近代的な造りになっているので、古すぎるのはちょっと…という場合には梅の間がいい感じ。ただし部屋の雰囲気はどの間もそれほど変わりません。

梅の間と河原の湯との間には亀の間という場所があって、ここは食事の提供を行っていたときの食事会場です。造りとしては大広間で、旧家から移築してきた囲炉裏や柱などを用いて建築されたとのこと。

今後、食事の提供が再開されたらまたここを利用することができるかも?

温泉

館内の散策が終わったので、早速温泉に入りに行きました。

北温泉旅館の温泉には、以下に示すたくさんの温泉があります。ただし場所によっては屋外にあるため、天候次第で入るのが難しくなる場面も。

  • 天狗の湯…松の間の隣。混浴形式。北温泉旅館を象徴する温泉。
  • 打たせ湯…松の間の隣。
  • 家族湯…松の間の隣。貸切形式。
  • 河原の湯…梅の間の隣。男女別。露天風呂だが屋根付きなので安心。
  • 相の湯…梅の間の隣。男女別。
  • 温泉プール…梅の間の隣。混浴形式。相当に広い。
  • 目の湯…竹の間の隣。女性限定。

源泉の数はなんと3つもあり、いずれも単純温泉です。温度は53.6℃でpHは6.3。無色透明かつ無味無臭のお湯が400リットル/minで掛け流されていて、温泉としてのパワーがとにかく強いのが特徴です。

源泉温度はアチアチなものの、いずれの温泉でも温度調節されているので問題ありません。

改めて温泉の位置関係を示すと、上の通り。

日帰り温泉の場合は全部入れるのか、それとも限定されているのかについてはちょっと聞き忘れました。

天狗の湯~打たせ湯~家族湯

まず最初は、北温泉旅館の名物でもある天狗の湯から。

天狗の湯周辺には合計3つの温泉があり、うち2つは屋外の通路を歩いていった先にあります。歩くと言ってもほんの数メートルほどなものの、天候次第ではなかなか訪れにくいかもしれません。

松の間の廊下を進んでいった終点がそれらの温泉の入口で、入った先の右手方向が脱衣所となっています。

脱衣所は男女別に分かれており、アコーディオンカーテンで仕切ることができるので女性の方でも安心。ただ、天狗の湯自体は混浴なのでそこだけ注意ですかね。

廊下から脱衣所までは一応仕切りというか天井から垂れ下がっているカーテンのようなものがありますが、基本的には廊下から丸見えです。あと天狗の湯方面も丸見えなので、ある程度は割り切るしかないかと。

これをずっと見たかった

脱衣所の反対側にあるのが、かの有名な天狗の湯です。

見ての通り巨大な天狗の面が壁にかかっているので、誰もいないにも関わらず何者かの視線を感じてしまう。建物としては上部分は木造なのに対して、下部分の湯船や一部の壁は石でできているのが特徴でした。

そんな地味な色合いの浴室の中に、ハッとするような鮮やかな真紅の天狗の面。このインパクトの大きさは訪れた人しか分からない。

正面の天狗の面がマジで大きい

天狗の湯の入口付近にも脱衣所があって、この上にも小さめの天狗の面がかかっています。なんか険しい表情をしている。

天狗の面は奥から手前に大中小と3つあり、それぞれ壁に一つづつ鎮座しているのが分かると思います。

掛かっていないのは窓がある一面のみで、つまり湯船に浸かっている間は常に3人の天狗と混浴しているような形に。なんか良い意味で落ち着かない入浴になってしまって、そのうち天狗の面が話しかけてくるんじゃないかと思ってました。いつの間にか本物の天狗にすり替わってそう。

天狗の湯は昼間でも少し薄暗く、夜になると最低限の明かりのみになるので一人で入るには勇気が必要でした。

左が源泉で、右が水。

浴室にあるのは湯船が一つだけで、シャワー等も洗い場も一切ないという潔さ。脱衣所から一番低くなっているところに長方形の湯船が大きくとってあり、オーバーフローした湯が贅沢にドバドバ流れ出ているのが素敵だ。

湯船の中央付近から注がれているのが源泉で、温度は50℃以上あるのでこの近くにいくのは危ないです。

源泉が直に投入されている影響なのか天狗の湯の温度は他と比べるとかなり熱めで、右側の水が注がれているところに移動すれば長湯ができました。

いずれにしても、こんな威圧感のある温泉は全国探してもここだけじゃないかと思います。浴室に天狗がいる不思議すぎる空間。今回、ここに泊まりに来て本当に良かった。

山側の窓を開けると、裏手の山で湧出した源泉が流れている様子を見ることができました。この源泉は天狗の湯をはじめとした温泉に供給されているほか、そのうちの一つは最終的に玄関ロビーに流れ着く形になります。

なお「湧出した」というレベルではなく、山肌を伝う滝のようにかなりの湯量があります。それが湯気や音を立てながら流れているわけで、北温泉旅館周辺の源泉の豊富さには舌を巻いてしまう。

公式サイトによれば「源泉の口から溢れたお湯が山の斜面を奔流となって駆け下ります。溢れたお湯が山の斜面を滝の如く流れるところから滝の湯と言われています。」とのこと。湯量は昔から変化していないようで、この地に温泉旅館が建てられるのも納得。

脱衣所からさらに奥には、屋外へ続くドアがあります。

ここを開けて先に進むとちょっとした広場があって、ここが北温泉旅館の最奥。位置的にも高いので松の間や梅の間などを眺めることができました。広場の様子からすると昔建物が建っていたような感じですが、詳細は不明。

そのまま上っていくと、高台にはレンガでできた神社がありました。ここには元禄4年(1692年)建立された黒不動明王をお祀りしてあって、そのまま参拝することができます。

振り返ると天狗の湯の建物の右側にもう一つ建物があり、ここが打たせ湯と家族湯です。

建物の背後、山から湯気が出ているところが源泉が湧き出している部分で、ここから下流へと流れていく過程で旅館の各地に源泉が供給されていく形。こうしてみると高いところから低いところに源泉が移動していく様が本当に見事で、これまで散策してきた館内の様子に納得がいきました。

家族湯はこんな感じで、こじんまりとしたスペースにL字の湯船が設けられています。

温度は比較的ぬるめなのと、湯船の手前側に寝そべることができるのが特徴。おそらく館内の温泉で一番温度が低いため、ここで横になって温泉に浸かりながら寝るのもいいかも。ぬるいので効能としては精神安定に効果があるようです。

家族湯の名の通り、一度に入れるのは二人程度なのでプライベート感もあります。

打たせ湯の方は湯船はなく、上から滝のように温泉が流れているのが2箇所あります。

温度の方は少し熱めですが、いかんせん湯船がないので季節によっては寒く感じるはず。暖かい時期限定で入るのが良さげです。

河原の湯(露天風呂)

河原の湯は梅の間へ続く廊下を突き当りまで進んだところに位置していて、すぐ横にあるのが余笹川という川。その川の存在を実感しながら温泉に入ることができるので、露天風呂ならではの良さがあふれている場所だと思いました。

単純に屋外にある風呂=露天風呂というところもある中で、屋外にある=大自然の音がよく聞こえるという方針からここに露天風呂を持ってきたのは本当にすごい。

温度については少し熱めでした。

なお露天風呂ながらも半分ほどは屋根付きになっているため、雨の日でも気にせず入ることができます。

相の湯~温泉プール

相の湯と温泉プールは、帳場横の階段を下っていった先にあります。

廊下の終点が屋外へ繋がっているので、ここでサンダルに履き替えて旅館の正面方向へ。

これらの温泉については、旅館まで歩いてくる途中に必ず目に入るので印象に残っているはず。

相の湯の様子。

脱衣所の先に浴室があり、そこには湯船が一つだけというシンプルな造り。湯船は石でできており、木造の建物との相性が良いと感じました。温度についてはこの季節でもちょうどいい感じで、長湯ができる程度の熱さがあります。

相の湯の横にあるのが、プール並みの広さをもつ温泉プール。入るには水着の着用が義務付けられています。

今回入りに行ったときは水量がそこまで多くなかったものの、大雨が降った翌日には湯船?の縁までいっぱいになっていました。

温泉プールは特にお子さんに人気らしく、帳場横に浮き輪が常備されています。現に翌日は家族連れの方が日帰りで入りに来られていました。端っこの方には滑り台もあるので、温泉プールの名称がよく似合っていると感じます。

というか、ここだけ見るとまさか温泉だとはにわかには信じがたいレベル。最初見たときは池かと思ったものの、水面から湯気が立っているのを見てやっと温泉だと認識したくらい。前もって情報を得ていたとしてもこれには驚きました。

目の湯(女性風呂)

最後は、竹の間3階から行くことができる目の湯。

ここは本来女性限定なのですが、今日の宿泊者は自分だけなので見学だけしに向かいました。

北温泉旅館の温泉はどれもそれぞれ独特の個性を持っている中で、目の湯もまた特徴的な温泉です。

浴室の窓側に端から端まで湯船が連続していて、その反対側には身体を洗う用の上がり湯の小さな湯船。浴室そのものが縦に長いので余計に広さが際立っている感があります。


こんな感じで温泉の数がとても多いので、全部に入るだけでもかなりの満足感を得られました。

仮に湯治をするとなれば、これだけの数の温泉があるので気分的にも新鮮になれると思います。そうでなくても温泉は各地に分散しているので、館内の散策を兼ねて回ってみるのが吉。

夜の時間~翌朝

夕食までの時間は各地の温泉に入りに行ったり、温泉に入って疲れたら玄関ロビーで休むなどして過ごしました。

素泊まりなので夕食と朝食については適当に済ませたけど、何泊もするという場合には自炊室で凝った料理を作るのも一つの選択肢。前述の通り旅館の周辺には山しかないので、もし日にちごとに買い出しに出かけるのが面倒という人は最初にがっつり買い込んでおく必要があります。

夕食後は再度温泉に入りに行き、早い時間に就寝となりました。標高のおかげで気温は比較的低く、窓を開けっ放しにしておけばエアコンや扇風機がなくても快適です。

夜になると館内はもう真っ暗になってしまって、しかも宿泊者は自分だけなのでかなり心細かったというのが正直なところ。廊下の曲がり角を曲がったら何かしらの妖怪に遭遇しそうでした。

というか、すでに天狗には会っているしな。他の妖怪に出会ったとしても全く驚きではない。

翌朝。

大雨の音で目が覚めました。どうやら一晩中降っていたようで、そのおかげで涼しく寝られたというのもあります。

簡単な朝食の後、天狗の湯や他の温泉に入りに行った後にチェックアウト。旅館を去るタイミングでは複数の日帰り温泉客がすでに訪問されていたので、日によらず人気な旅館であることが伺えました。

場所的にも那須岳からのアクセスが良く、那須岳に登ったあとに汗を流す目的で立ち寄る人が多いみたいですね。

おわりに

こんな感じで、ずっと行ってみたかった北温泉旅館での一夜は終了。

なんかもう宿泊というよりは散策がメインになってしまった感はあるけど、これだけ館内を歩いていて新しい発見がある旅館は個人的に初めてかもしれない。単純に広いし古いし入り組んでいるしで、温泉に入りながら同時に散策も満喫できるのが魅力だと感じました。

あと、やっぱりここは一泊だけで済ますのはもったいない。

二泊三泊と長く過ごしながら、食事や日中の時間などを自分の好きなようにできる湯治の良さ。これを体験してみるのが一番じゃないかなという印象です。自分が社畜じゃなかったら一週間くらい籠もってそう。

北温泉旅館は最初から最後まで色んな感覚を覚えた本当に素敵な旅館だったので、末永く続いていってほしいというのが私の願い。今度は寒い冬の時期に訪問しようと思っています。

おしまい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

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