杖立温泉 旅館白水荘 明治5年創業 背戸屋に佇む木造3階建て旅館に泊まってきた

今回は、熊本県小国町の杖立温泉にある白水荘に泊まってきました。

白水荘の創業は明治5年(1872年)と古く、初代から数えて現在の女将さんで4代目。杖立温泉の中でも老舗に分類される温泉旅館として現在に至っており、木造3階建てという稀有な構造が特徴です。杖立温泉自体が川と山に挟まれた狭隘な土地に形成されているので、そこに建つ建物も自然と高層になるというわけです。

「本館は、安いお値段で安心して泊まれる宿を目指しております」と公式サイトに記載されている通り、白水荘は杖立温泉においては比較的リーズナブルな価格で宿泊することができるところです。

ただしその半面、浴衣やタオル、歯ブラシ等のアメニティ類は別料金となっているほか、基本的には素泊まりか朝食付きのプランがメインで、夕食(お弁当)は曜日によっては提供がないようです。これは別にマイナスな面というわけではなく、宿泊形式をこちらで選ぶことができるという点では、選択肢が多くなって良いと思います。

今回はアメニティ付きの朝食プランを選んだところ、料金の方は7000円でした。館内は当時から少しずつリノベーションがされていて比較的新しく、明るい雰囲気も相まって滞在が心地よいものになりました。

もくじ

外観

まずは外観から。

杖立温泉の中心を流れる杖立川、その右岸側を下流に向かって歩いていくと温泉街の端に行き着きます。白水荘はそこから薬師通りと呼ばれる細い路地を下ったところにありますが、周囲には建物が密集していて平坦なところがなく、現代の宿の立地としてはかなり特異でした。

杖立では昔ながらの細い路地を、背戸屋(せどや)と呼んでいます。

限られた土地に建物を増改築していった結果、そういった路地は曲がり角や階段が多い摩訶不思議な空間になっています。背戸屋はあくまで生活用の道であって、今ではない昔に形作られた杖立を象徴する存在。そんな別世界のようなところに白水荘は建っており、なぜか懐かしい気持ちになりました。

旅館のすぐ近く、ちょうど背戸屋に下っていく手前側には24時まで営業しているコンビニ(Rショップかじか)があるので、ここである程度のものは買うことが可能です。

薬師通りへの下り口
薬師通りには、昔の杖立温泉の風景写真が展示してあります
階段を下っていくと白水荘がある
白水荘の裏側(川側)
白水荘の正面部分。右側は別の建物。
2階部分にある玄関。路地裏のようなひっそりした場所にあって驚き。

白水荘の構造を最初に説明すると、1階に食事場所、2階にフロントや温泉、客室があり、3階は客室のみという構成です。

薬師通りから石段を下りきったところからは建物の大部分を1階から3階まで眺めることができますが(というか、ここからしか見えない)、こちらは旅館の正面ではなく裏側です。

1階(食事場所)のところにはガラス戸が設けてあって、ここから中に入るものだと思っていたところ、実際には階段の途中から右の細い道へ逸れたところに玄関がありました。玄関がある面が旅館の正面とすると、道路側には別の建物がそびえているので正面は隠れている形になります。

旅館への道中や玄関の隠れ具合も相まって、杖立温泉特有の路地裏風景に馴染むようにして白水荘は佇んでいる。建物自体が古いということもあるけど、旅館全体が周りの環境に溶け込んでいる様子がよく分かりました。

館内散策

玄関~2階

それでは早速館内へ。

玄関があるフロアが2階部分に相当し、すでに述べたように2階にはフロントや温泉への入り口、それにアメニティの貸出スペース等が集まっています。一回投宿してから温泉街へ再度繰り出すという場合も多いだろうし、ここは滞在中に何回も通ることになるかと。

一般的な宿だったら順当に1階にフロントがあるところ、おそらくですが白水荘は違う階への移動を最小限にするために2階をメインフロアにしているんだろうと思います。1階にフロントがあったら3階に泊まる場合の上り下りが大変になるものの、2階からの移動ならば1階分で済むし。

動線は玄関入って右側へと続く
右端にフロント
1階への階段

玄関を入ってすぐの空間は特に幅方向がかなり広く取ってあって、旅館の玄関とは思えないくらいの体積がありました。

しかも玄関土間と廊下部分との高低差がほとんどなく、靴を履き替えるときの足の上げ下げが必要最低限で済みます。屋内と屋外との境界があまり明確でないというか、ここまで出入りが楽なのはあまり見たことがない。

客の動線としては玄関入って右側に続いており、その端っこにフロントがあります。また逆に左側に向かうと1階への階段があって、ここを下ることで食事場所へと向かうことができます。

玄関正面にはかなり急な階段があって、ここを上ると一気に3階に向かうことができる様子。

ただし一般的にここを通るのは危なげなのか、今ではあくまで飾り棚として使われていました。

ロードバイクは、ご厚意で玄関土間に置かせていただきました。ありがたい。

建物における玄関周辺は建物によってかなり特色が出る場所で、白水荘の玄関はその広さと奥行きの長さが個人的に好きになりました。玄関を入ってフロント方面への見通しがすごく良いし、ここからどっちへ進めば良いのかがすぐに理解できる。

複雑に動線が入り組んでいる旅館もそれはそれで素敵な一方で、白水荘では、泊まった人への利便性や分かりやすさを考慮して改装が行われています。改装ってただ単純に古いところを新しくすればいいというわけでもないし、これは良いと思います。

フロントの横を抜けてさらに先へ進むと左右への分岐があって、右側に進めば屋外を経て温泉へ、左側へ進むと各階の客室へと向かうことができます。

左側については1階への階段と3階への階段が一緒に存在し、2階の客室へはそのまま階段の横の廊下を抜けていく形。先ほど玄関で見かけた梯子みたいな細い階段は通れないので、3階に泊まる人も必ずここを通る形になりますね。

2階の客室はさらに廊下を進んでいった先にある

目の前の廊下を歩いて振り返ったところがこちら。

廊下の右側にあるのが1階の厨房に下る階段(立入禁止)、左側にあるのが3階への階段です。現在における一般的な宿のように1箇所に階段がまとまっている形ではなく、1階⇔2階と2階⇔3階の階段が、それぞれ別々に存在しています。

トイレ
昔の洗面所

階段の近くにはトイレ(と洗面所)があって、昔の洗面所跡は花壇みたいになってました。

玄関から廊下を歩いてここまで来た中で思ったこととしては、木造建築の柔らかな感じが建物としての温かさを生み出しているということ。壁や廊下はもちろんのこと、階段付近については手すりの木材の組み方も含めて「木」ならではの味が感じられる。

照明も暖色系で統一されていて、奥まったところでも適度に明るいので通りやすい。古い建物が苦手な人にとっては館内の暗さがちょっと…というケースもある一方で、白水荘は明るめなのでそういうのも無いと思います。

白水荘が古い旅館を改装されているというのはうっすら知っていたものの、実際に訪れてみると新しすぎない程度に収めているのが自分好みな印象。古い旅館が現代に適応した一つの姿なのかもしれません。

泊まった部屋

今回泊まったのは、2階の廊下を歩いていった奥に位置する「河鹿」の部屋です。

電話で予約する際に、川に面した部屋で静かなところをお願いしますと伝えたらこの部屋を充てがっていただきました。広さは8畳あって広縁付き、さらに冷暖房完備で快適そのものです。

実はこの日は平日にも関わらず宿泊者が多く、白水荘の中ではたぶん人気であろうと思われる川の上流側の方の部屋(さっき外から見えたところ)は結構埋まってました。逆に河鹿の部屋の周りに泊まっている人はおらず、結果的に静かに過ごせたので嬉しいです。

木造の宿で隣に複数人の客が泊まっていたりすると夜は物音が気になるだろうし、せっかく温泉旅館に泊まるのだから喧騒とは無縁の環境でまったりしたいもの。心配な方は、自分のように予約の際に相談してみるのがいいかも。

河鹿の部屋

鍵付きの戸を開けるとまず1畳ほどの踏込があり、襖戸の奥が客室になっています。

到着時点ですでに布団が敷かれているので好きなときに寝ることができるのに加えて、今回選んだプランは朝食のみ。つまりこれから朝までは完全に自由時間ということになって、温泉街を過ごす上での時間的な制限があまりない。ここから散策に出かけてもいいし、もちろん温泉に入りに行ってもいいわけです。

杖立温泉での一夜をどう過ごすかは宿によるところが大きい中で、白水荘はその自由さが売りの一つだと思います。

アメニティ類

部屋の中にはエアコン、テレビ、金庫、内線電話、洗面所があります。あと壁の低いところに鏡が取り付けてあって、これは昔はどういった使われ方をしていたのか気になる。

アメニティ付きのプランを予約したので、戸棚の中にはアメニティ一式が入っていました。

天井は一様ではなく所々が出っ張ったようにな構造になっていますが、改築の影響でこうなったのかな。

改めて室内を見渡してみると、一人泊で8畳間はかなり贅沢。
客室としては一人よりは二人用の広さであって、しかも天井が高めで窮屈感を感じることはない。6畳と8畳とでは滞在中の感じ方が結構異なっていて、どっちかというと最近は8畳の方が好きかもしれない。

広縁からの眺め

旅館にあると嬉しい要素である広縁。

泊まった部屋の広縁は幅が広くて、端には洗面所もあって便利さが増しています。そもそも部屋の広さが8畳もあるので広縁もそれに応じた広さになっているわけで、置かれているものの少なさも影響して余計に広く感じました。

で、この広縁は広さだけでなく、そこからの景観も自分が好きになったポイントです。

眼下に見えるもみじ橋をこのアングルから眺められるのは、この部屋に泊まった人だけの特権。手前側と橋の奥側の建物がどっちも廃墟なのはちょっと置いておいて、温泉街の中でもこの場所は白水荘からでしか味わえません。

極論になるけど、上流側の部屋から見る杖立川の風景は別に白水荘からでなくても見ることができる。川沿いの風景は日中の散策時にも十分楽しんだけど、この角度からの杖立川は見たことがありませんでした。
温泉街の一番下流にあるこの橋を訪れる人があんまりいない中で、自分だけがひっそりとこの景色を見ているというシチュエーション。端っこにあるので他の観光客も歩いてなくて、色んな意味で静かな場所でした。

1階 食事場所

今回泊まる部屋を確認したので、続いては玄関に戻って1階へと降りてみます。

夕食付きプランを予約した方は、朝食と同じくこの食事場所で食事をすることになるみたいです。

玄関入って左側の戸を入り、右方向に折れるようにして続いている階段の先にあるのが1階。2階以上に1階もまた天井が高く、空間的な広がりが気持ちいいです。

階段を含めて1階には窓が多く設けてあって、屋内への採光は必要十分。早い時間で日陰になりやすい山間部の中で、自然光を多く屋内に取り入れられるように工夫がされていました。

階段を下って左右に各テーブルが配置されていて、階段正面には電子レンジやお茶セットなどが置かれています。その向こう側は厨房で、宿の方は普段はそちらにいらっしゃるようでした。

ガラス窓のそばにある巨大な木はこの土地特有の「小国杉」というもので、見ての通り大きなコブが形成されています。杉って真っ直ぐな樹木だったと思うけど、何をどうしたらこう育つのだろうか。

この小国杉は白水荘の初代が切られたものだそうで、食事場所に展示してあるので見学することが可能です。

白水荘の1階、なんというか「理想的な食事会場」って感じがする。

大きなガラス窓にレンガみたいな形の木枠、窓際に置かれた観葉植物、そして手前の椅子とテーブル。全体的にお洒落な内装が目立ち、ここで迎える朝はすごく素敵だろうということを想像させる。

3階 客室フロア

次は、階段を上がって3階へと向かいました。

3階は完全に客室のみのフロアになっていて、共用施設はトイレのみです。

階段を上がると左側に襖戸があって、動線としては右側に続いています。

3階は全体的に白っぽい色をしているのに加えて、廊下の中央付近に赤い絨毯?が敷かれているので歩く部分が分かりやすくなっています。さらに2階よりは窓の数が多く、それによって館内の照らされ方が明らかに異なっているのが分かる。

1階は木造ということを押し出しているのに対し、客室フロアは壁紙で覆われているので雰囲気も違います。

廊下の突き当り

さっき上ってきた階段をぐるっと回り込んだ先にも廊下が続いていて、ここの廊下は旅館の最奥まで一直線に続いているものでした。2階における自分が泊まる部屋の前の廊下と位置的には同じところにあって、直線度は3階の方が上です。

こうして見てみると、同じ客室フロアでも2階と3階とではかなり様相が異なっていることがなんとなく分かりました。直線上の廊下の左右に客室が連続している様子はなんだか昔のホテルのようで、こっちの方が好みという人もいると思います。

川の上流側にも廊下は続いていて、その先には客室が3つありました。これらの部屋が、屋外から見たときの広縁付きの部屋に相当するようです。

廊下そのものは一番手前側の客室の前で途切れているものの、玄関にある階段がここに繋がっているので一応行き来はできるみたい。昔はこれを現役で使用していたのだろうか。


以上が白水荘の館内の全容となって、3階建ての中の構造や明るさ、廊下の配置などが全て異なっていることが理解できると思います。

自分が泊まることになる階以外を散策することはあまりないとは思うけど、木造建築の宿自体が珍しいのでちょっと歩いてみるのがおすすめ。

温泉

今回は一通り温泉街を散策した後に宿に戻り、夕食に出かける前のタイミングで温泉に行くことにしました。

白水荘の温泉はメインの建物から独立して存在していて、温泉に入るには一度外に出る必要があります。ただしスリッパを履き替える必要はなく、そのまま歩いて通ることができます。

  1. 泉質:ナトリウム-塩化物温泉(低張性 アルカリ性 高温泉)
  2. 源泉温度:75.7℃
  3. 温泉成分の特徴:無色透明、ほとんど無臭、塩味
  4. 循環・かけ流しの状況:かけ流し式
  5. 加水の状況:泉温が高いため、夏10%程度、冬5%程度の水道水を加水している。
  6. 加温の状況:なし

杖立温泉の温泉は温度が高いのが特徴で、冬場だとその熱さが嬉しくなってくれるところ。

源泉をそのままかけ流すと人間が入れる温度ではなくなるので適度に加水をされていて、これによって比較的長湯ができる温度に調整されていました。

温泉の入口

白水荘の館内から屋外に出たところは周りを建物に囲まれており、ここだけ切り取っても杖立温泉がどういうところなのかが分かりやすかったです。

平地がほとんどないので基本的に建物と建物との距離が非常に近く、その間を通る道は必要最低限の細さ。さらに建物は上へ上と大きくなっているので、ちょっと見上げるとそこそこ圧迫感を感じました。

温泉の様子はこんな感じで、男湯は右側に浴槽、左側に洗い場があります。

肝心の温泉については、かけ湯をしっかりやってから入ると意外にもちょうどいいくらいの温度。最初は手を浸けただけであまりの熱さに引いてしまったけど、身体を慣らしておけば特に問題ないです。

じっくり入っているうちに身体の芯までしっかり温まってくれて、朝に走り始めたときのあまりの寒さに手がかじかんでいたことを思い出す。なんだかんだで朝晩はまだ冷えるし、温かさが持続してくれるタイプの湯なので助かります。

夕食~翌朝

温泉に入った後は軽く休憩し、薄暗くなるのを待ってから夜の杖立温泉街へと繰り出していく。

これだけ魅力的な町並みが広がっていると、昼間だけでなく夜も積極的に出歩きたくなる。普通の宿だったら夕食をすませばそのまま外に出ることがないものの、その土地の夜の雰囲気を味わえるのはこの時間帯しかありません。これからも、できる限りは夜の町を歩いていきたい。

あと、今回は夕食がないプランを選んだので、どっちにしろ夕食を食べに外出しなければなりませんでした。

まず布団を敷いておく

今回は、温泉街のちょうど真ん中付近にある定食屋で夕食にしました。

昼間の時間帯のうちに観光案内所や白水荘の方に聞いて情報収集した結果、こちらの「こまつ食堂」が一番夕食に向いていると思います。あとはさっき確認したコンビニくらいしかないし、まあほとんどの宿泊客は夕食有りの宿に泊まるはずだけど、念のため。

夜の白水荘。平日なのにも関わらず泊まっている人が多かった。

その後は夜の散策を楽しみ、白水荘に帰還して早目の時間に寝ました。

明日の出発はそこそこ早いし、個人的に満足の行く夜を過ごすことができたのでもうやることはない。いつもはこんな時間には眠くならないのに対して、旅先だとどうも眠くなるのが早い気がする。

翌朝は至って普通に目が覚め、片付けを済ませて朝食の時間となりました。

朝食の内容はこんな感じで、ご飯はおかわり自由です。

朝からしっかりお腹いっぱいになって栄養補給し、女将さんにご挨拶して白水荘での滞在は終了。山間部に位置する杖立温泉に朝はまだ来ていないようで、冷えた空気を感じながらの出発となりました。

おわりに

温泉街に何を求めるのかは、人によって異なる。

もちろん温泉に入りまくりたいという場合や食事を楽しみたいという場合もある中で、杖立温泉を訪問して自分が思ったこととしては、ここは温泉そのものに加えて散策が楽しい場所だということ。特徴的な地形やそこに建つ家屋は唯一無二のもので、杖立川の流れとともにある町並みを眺めていると、小さな悩みがどうでもよくなってくる。

白水荘は比較的安価で杖立温泉に宿泊することができる宿で、どちらかというとサービスの内容よりは値段、自由さを重視する人にとっては向いていると思います。

ただ建物自体にも趣がありまくりで、現代風に改修された3階建ての旅館は居心地の良さを提供してくれる。夜も静かに過ごせたし、良い一日になりました。

おしまい。

番外編 杖立温泉の散策

昼の杖立温泉

杖立温泉に到着してからは、白水荘に滞在している以外はずっと温泉街を歩いて散策していました。

杖立温泉の立地上の特徴としては、杖立川沿いの非常に限られた部分に建物が集まっているところです。何しろ川の両サイドに高い山がそびえていて、そこに人が住もうと思えば川のすぐ外側、山が始まる手前しかありません。従って建物と建物との間には高低差があり、建物自体が高層なこともあって、そびえ立つような景観を眺めることができます。

ただし温泉街に宿泊施設と民家しか存在しないわけではなく、この狭い範囲にコンビニや飲食店、郵便局、公共駐車場、ガソリンスタンド、土産物屋などが集まっています。店や民家が多いのは杖立川の右岸側で、左岸側はどちらかというと宿が多い印象です。

川とほぼ同じ高さには駐車場があって、温泉街の奥の方の駐車場に向かうには沈下橋を渡る必要がありました。そこそこ細いので運転には気を使うかも。

あと、水が少ないこの時期だったら特に問題ないものの、ちょっとでも川が増水すれば駐車場は水没してしまって使えないことになります。一気に増水したときとかどうするんだろう。

下流側のもみじ橋

右岸と左岸を行き来できる橋は3箇所にあり、そのうち車が通れるのは旅館泉屋の横の1本だけです。

残りの2つは歩道になっていて通行できるのは人間(と自転車)に限られるものの、ちょうど温泉街の両端と真ん中付近に架けられているのでとても便利。実際に今回泊まった白水荘から対岸に渡るときは、すぐ下にあるもみじ橋を渡りました。

左岸側には生目八幡神社という神社があり、この周辺は特に建物が入り組んでいる「背戸屋」という生活用の路地が通っています。

路地裏巡りが好きな人にとっては多分たまらないであろう道だったのですが、神社周辺の家屋は年末に起きた火事によって焼け落ちてしまっています。今回の訪問時はその取り壊しや撤去作業をしている最中で、かつての雰囲気は失われたようでした。残念。

左岸側の旅館群

とはいえ、背の高い旅館の前や、その間の細い道を通ることができるというのは変わっていません。

特に目的もなく歩いているだけでも十分楽しいし、表通りを外れて裏道を歩くのも散策の要素の一つ。杖立温泉自体はこの時期は比較的静かで、のんびりと回ることができました。

有名な鯉のぼりの季節(杖立温泉が一番混む時期)になるとかなりの混雑が予想されるものの、人が多いハイシーズンよりは空いているオフシーズンの方が好きかな。今回杖立温泉を訪問した理由の一つはそれです。

温泉街のあちこちからは温泉の噴煙が上っている様子が確認でき、風景という動かない要素の中に「動」が生まれている。例えここが温泉街だとを知らなかったとしても、煙が上っていることによってその存在を把握できるというのが、なんか好き。

温泉街の下流から上流方向を見る
上流から下流を見る

温泉街の端から端までの距離は約300mといったところで、歩いて回る分にはそれほど広い範囲ではありません。

特に橋の上からなら温泉街全体を見渡すことができるし、川に降りてみれば左右の建物の大きさが分かりやすいと思います。温泉街の各所には日帰り温泉もあって、要は泊まる宿だけではなくちょっと出歩いてみるのも面白いということ。

山の中にある温泉は全国に数あれど、杖立温泉のように山と川の両方の存在感が大きいのは珍しい。

地形に特徴がある場所は当然ながら家屋の集まり具合や構造などにもそれが反映され、結果として特異な景観が形成される。至るところに魅力的な階段があるので、横方向に加えて縦方向への移動を楽しめるのがいいですね。

夜の杖立温泉

そんな杖立温泉ですが、夜になると雰囲気が一変します。

温泉街を静かに照らしているのは街灯の灯りで、逆に言うと街灯以外の灯りが杖立温泉には非常に少ない。廃業された宿や誰も住んでいない家屋がそこそこあるのも関係して、暗闇と灯りの割合が一般的な温泉街に比べると偏っていると感じます。

暗闇が多いだけ、灯りに遭遇したときの安心感はかなりのもの。なお今回の訪問時はそこそこ気温が高かったので、夜に出かけるのが億劫になることはありませんでした。

こういう寂しい風景も好き

温泉街にしてはなんか暗いな…というのが分かるかと思います。なんというか異世界感がある。

ただし表通りには街灯が多く設置されているし、それ以外の路地についても歩くのに支障はないほどの適度な暗さ。影になっている部分が全くないくらいという明るい夜を過ごすのもいいですが、これくらいの闇を歩くのも案外楽しいと今回気が付きました。

夜は視覚から得られる情報量が減り、代わりに杖立川が流れる音が強調されて感じられる。暗闇の恐怖というのは遺伝子レベルで人間に埋め込まれている要素ですが、あえてそんな中を歩くのも良い。

この日は平日だったので各宿の宿泊者もそんなに多くないようで、実際に日中の散策時間に遭遇した人は数えるほど。その静けさが夜までずっと延長されていて、活気というよりは一種の寂しさがそこかしこに感じられる。旅の中では、こういう心細くなるような夜があってもいい。


本ブログ、tamaism.com にお越しいただきありがとうございます。主にロードバイク旅の行程や鄙びた旅館への宿泊記録を書いています。「役に立った」と思われましたら、ブックマーク・シェアをしていただければ嬉しいです。

過去に泊まった旅館の記事はこちらからどうぞ。

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