今回は長野県の湯田中渋温泉郷・角間温泉に属する越後屋旅館に泊まってきました。
湯田中渋温泉郷といえば長野県の北部にある一大温泉地で、湯田中温泉や渋温泉といった有名どころが集まっている場所でもあります。自分もここを訪れる機会が今までに何回かあって、ついこの間だと9月に渋温泉に泊まりに行ったことは記憶に新しい。
ただ角間温泉はそんな湯田中渋温泉郷の中にありつつも、どちらかというと多くの観光客が訪れるようなところではありません。むしろひっそりと温泉に入って、静かな雰囲気を楽しみたいと思う人が選択するようなところです。場所的には渋温泉のすぐ南側に位置していますが、角間温泉という名前の温泉は上田市にもあるので、今回訪問した山ノ内町の方の角間温泉は知る人ぞ知るという位置づけのようでした。
湯田中渋温泉郷と角間温泉
実は「湯田中渋温泉郷」は以下の温泉の総称で、何も湯田中温泉と渋温泉の2つに限定した名称ではないです。一つ一つの温泉としての規模は比較的小さく、それが集まることで巨大な温泉街が形成されています。
- 安代温泉
- 角間温泉←今回泊まったところ
- 上林温泉
- 沓野温泉
- 地獄谷温泉
- 渋温泉←前回泊まったところ
- 新湯田中温泉
- 星川温泉
- 穂波温泉
- 湯田中温泉
湯田中温泉や渋温泉はどちらかというと賑やかな感じがする一方で、角間温泉はそれと対極にあって「鄙び」が感じられる温泉です。
館内散策
今回の行程は至ってシンプルで、日中は長野県の山岳地帯を縫うように自転車を走らせ、夜はこの角間温泉で1泊するという流れ。日中はとにかく寒いので宿泊地に温泉を選んだのは正解でした。
越後屋旅館は明治時代に建築された古い歴史があり、外観から館内まで実に自分好みな雰囲気が広がっていました。
すでに述べたように、そもそも角間温泉は非常にコンパクトにまとまった地域です。今は4軒の旅館と3軒の共同湯のみが存在しており、民家が立ち並ぶ一角にいきなり旅館群が登場してくることもあって、地域に根付いている感がより強く伝わってきました。
越後屋旅館は正面から見ると木造3階建てで、1階から2階、3階へと上に上っていくにしたがって軒下がせり出すような構造になっています。
角間温泉自体が山の斜面に位置している影響で建物全体の造りも特徴的になっていて、玄関から奥に向かうにつれて階数が変化していく、いわゆる懸け造りが用いられていました。
玄関の天然石が敷き詰められている土間部分は非常に広く、例えば積雪時は屋外から屋内に入ったときにここで雪を落とすことも容易にできます。そして真正面には2階へ続く階段があって、空間的に上へと続いていくことが想像できるのがまた良い。
今回の訪問時はギリギリ積雪がない時期だったものの、玄関の廊下にはファンヒーターが置いてあるし、土間部分には灯油の缶がたくさんありました。気温についても岐阜では考えられないほど低く、同じ12月初旬という環境であっても場所によって冬の度合いが大きく異なることが分かります。
見方を変えると一足先により深い冬を感じられるともとれるし、この寒さもなぜか心地よく思えてくる。
先程、この越後屋旅館の構造は懸け造りと書きましたが、本館玄関の1階部分を基準にすれば3階に相当する高さにある部屋となります。
階段を上って本館から隣の新館に移り、さらにその奥の階段を上っていった先にある最奥の部屋がそれでした。
あれこれ言う前に、この部屋の居心地の良さが凄い。
自分好みのこじんまりとした空間、すでに敷かれている布団、そして炬燵。この快適さに涙が出てしまう。
暖房については炬燵とファンヒーターのほかに館内暖房なる装置が置いてあって、夜に寝るときにはファンヒーターを切ってこっちを使ってくださいとのことでした。布団が十分暖かったので結局使ってませんが、原理的にはエアコンのようなものだと思います。
部屋だけでなく廊下周辺の意匠が凝っているところが越後屋旅館の魅力の一つ。
ただ単に木造というだけでなく、壁や階段の手すり、欄干部分にもちょっとした工夫がされていました。派手な飾り物や展示物はないにしろ、このように構造的に見応えのある部分があると心が癒やされます。
玄関に戻り、部屋に案内していただいた経路を辿ってみました。
玄関を入って正面には階段がありましたが、この階段の左奥が本館部分のメイン通路になります。廊下自体が非常に長く、入り組んだ様子はまったくないと言っていいくらいに直線状に続いているのが面白い。写真だと見づらいですが、一番下の写真の右奥部分が食事処になっており、夕食や朝食はそこでとるようです。
また、この長い廊下の向かって左部分には旅館の内湯があって、誰も使ってない場合は自由に入ることができます。内側から鍵を閉めることができる貸し切り形式で、他の宿泊客と一緒に入ることにはならないため、思う存分温泉を楽しめるということ。実はこの内湯も1箇所だけではなく、3箇所もあるのがこの旅館の最大の特徴でした。
新館の1階(本館を基準にすると2階部分)には広めの客室があるらしく、今日はこちらにも宿泊客がいらっしゃる様子でした。ちなみに私が泊まっている新館2階にももう一つ客室があるのですが、コロナの影響で使用できる部屋数を制限しているようで誰も入っていません。つまり新館2階に関しては、私のみの貸切状態です。
音が聞こえやすい木造の旅館だと、同フロアに別の客がいるというだけで結構気を使ってしまうものですが、今回に限っては割と気兼ねなく過ごすことができました。
先程通ってきた本館1階の長い廊下の途中にある階段を上に登り、本館2階へ行ってみることにします。
2階部分は完全に客室ゾーンになっていて、旅館正面の道に面した客室(旅館に入る前に見上げたところ)にもお客さんが入ってました。あの部屋からだと温泉街が一望できることは間違いないので、今度宿泊するときはこの部屋をぜひとも指定したい。
それにしてもこの廊下の様相が本当に素晴らしい。左の壁の構造なんかは屋根を模したものだし、ソファの背後の窓も非常に独創的なものです。
角間温泉自体が湯田中渋温泉郷の端に位置していて、そんな鄙びた温泉街の旅館に泊まるというだけでも嬉しいのに、旅館の内部ですらも落ち着く雰囲気に包まれている。
角間温泉共同浴場の魅力
館内を散策した後は、角間温泉の共同浴場に行くことにしました。
角間温泉には各旅館の内湯のほかに、宿泊客が入ることができる共同浴場が以下の3箇所あります。
- 大湯
- 滝の湯
- 新田の湯
日帰りの場合でも入れるのかどうかの確認は忘れましたが、宿泊客の場合は共同浴場の鍵を貸してもらえるため、これを使って自由に入りに行くことが可能です。
鍵といっても木製の三角形の棒で、これを穴に差し込むだけでOKです。この仕組みは渋温泉でもあったので、すんなりと理解することができました。
どの共同浴場も、基本的には同じような構造をしています。
戸を入ってすぐに脱衣所があり、脱衣所の横がもう湯船。洗い場のスペースは1人分か2人分しかなく、宿泊客のためというよりは地域の方の憩いの場という側面が強く感じられます。
お湯の温度については、これは個人的に意外だったのですが実にちょうどいい湯加減で非常にいい。
すぐ近くにある渋温泉をまたしても引き合いに出すと、渋温泉の共同浴場の湯加減は一言で言うと激熱です。源泉の温度がそもそも高いので、入る際に加水をしないととてもじゃないけど入れたものではありません。
なのでできるだけ他に人がいるタイミングで自分も入った方が、すでに温度調整がされているという意味でおすすめという側面がありました。
角間温泉はといえば、旅館の数は4軒しかなく(=宿泊客が少ない)、地域の方が入りに来る頻度もそこまで高いとはいえないため、湯船に入った瞬間に熱すぎて飛び出るレベルなのではと思ってましたが、これがいい意味で裏切られました。
そもそも水を入れるような注ぎ口が見当たらなかったため、すでに温度調整されたお湯が注がれているのかもしれませんが、温度についてそわそわしながら入る必要がないというのは気持ち的に快適でした。
今回は夕食の時間である18時頃に共同浴場に入りに行ったため、自分以外に入りに来ている人は皆無。男湯だけでなく女湯ですらも人がまったくいなかったので、思う存分まったりすることができました。
温泉街の雰囲気として、角間温泉に限っては他の物音が一切しません。聞こえてくるのは湯船の注ぎ口からお湯がこんこんと注がれてくる音のみ。あとは静寂そのものが広がっていて、一人で温泉に入るというシチュエーションではこれ以上のものはない。
これほど環境的にも精神的にも静かな状況で温泉に入れるのは、冬という季節ならではのことに加えて、角間温泉の雰囲気がいいからにほかなりません。
こういう温泉が自分は好きだ。
内湯
続いては越後屋旅館の内湯へ。
越後屋旅館には内風呂が3箇所あって、その内訳は小さな家族風呂が2つと、比較的大きな浴場が1つ。自分が風呂に入っている時は「入浴中」の看板を下げて鍵もかける方式になっていて、すべて貸切風呂にできます。
内湯の前の廊下や階段の一部には、歯車の形をした古材(水車の部材)が埋め込まれています。
それに加えて色とりどりのタイルも一緒に配置されていて、ふと足元に目をやるだけでも視覚的に賑やかになる。ご主人の遊び心なのかどうかは分かりませんが、歯車というのが個人的に気になりました。この近くで実際に使われていたものなのでしょうか?
まずは大浴場から。
旅館の造りが完全に和風なこととは対象的に洋風な造りになっています。ローマ風のように床も壁も湯船すらもタイル張りになっていて、お湯が注がれているカランについてはヴィーナスのような女神像が置いてある。
カラン周りの析出物の多さが湯の効能を物語っていて、さらに湯加減も共同浴場と同じ用に実に良い塩梅でした。湯量についてはカラン下の竹樋の有無で調節するらしく、それで湯加減もある程度上下できるみたいです。
広い浴室内で自分ひとりだけが湯に入っていて、周りは洋風。でも旅館は和風。このギャップが実に良い。
その次に入った家族風呂がこちら。
大浴場と同じようなタイル貼りの構造にも目を瞠るものがありますが、実に着目すべきはその湯船の形。
まるでソファのように座る部分が曲線で構築されていて、実際にここに座ってみると収まりの良さが実に良い。これは長湯が捗ってしまいそう。
温かいフィット感に包まれながら周りを眺めてみると、柱や窓の形もどことなくローマっぽいことに気づいた。やはりローマをモチーフにしたお風呂なのは間違いないようですが、どういう意図があったのか非常に気になるところです。
ところで、こちらの家族風呂のカランの形はカエルでした。
なぜカエルなんだろうか。自分が知らないだけで、何かカエルが関係しているのかもしれません。
今日は距離的には大して移動していないのに、極めて狭い範囲でこれだけのバリエーションに富んだ湯に5つも入ることができる。これが温泉街ならではの良さであるし、角間温泉のこじんまり感が最大限に活かされていると思います。
内湯の最後は純和風の檜風呂でした。
こちらは朝風呂に入ったこともあり、寒い身体が一気に温まったのがとても印象深い。朝イチで温泉に入れるのは宿泊ならではの特権です。
内湯から上がったあとは、いつの間にか布団へ移動して寝てました。
翌朝はこの日の行程が割と時間との勝負なところがあったため、6時30分には宿を経つという早起きプラン。温泉旅館といえば遅い時間までまったりしていたいところだけど、行程次第ではそうもいかないのが悲しいところ。
もっとも、昨日のうちに温泉には入りまくっていたので後悔はないです。
おわりに
こんな感じで角間温泉での一夜は終了。
ぱっと見ると規模が小さいと思われがちな角間温泉ですが、1泊したからこそその魅力に気づけた面もあります。大勢でわいわいするような温泉街や旅館ではなく、ひっそりと温泉に入りたい人にこそおすすめできると感じました。次回はぜひとも食事込みで宿泊したいです。
おしまい。
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