- Part 1:新穂高温泉~三俣山荘~雲ノ平~高天原温泉
- Part 2:高天原温泉~鷲羽岳~三俣山荘
- Part 3:三俣山荘~三俣蓮華岳~双六岳~新穂高温泉
前回の五竜岳登山に引き続いて今回も登山回で、いつもの日帰りや縦走とは一味違った行程を組んでみました。
簡単に言うと今回の登山は「温泉に入りに行く」のが目的です。ただし、その温泉の場所が北アルプスの奥地にあることから、温泉に入りに行く=縦走が必須という訪問難易度がかなり高いところです。
その名も高天原温泉。
北アルプス水晶岳の麓にある高天原湿原の北に位置し、どの登山口からも1日では辿り着けないことから日本一遠い温泉と呼ばれています。
過去、同じように徒歩でしか行けない秘湯として阿曽原温泉や仙人温泉などを訪問していく中で、トップクラスにアクセスが困難なこの高天原温泉の存在がずっと気になっていました。そこで、4連休を活用して訪問してみようと思ったのがきっかけです。
どこか遠方に走りに行く案もあったけど、なんだかんだで4連休ってどこも混みあってしまう。いざ4連休が終わってみれば日本中どこも観光客で賑わってたみたいだし、ある程度人は多かったとはいえ落ち着いた北ア縦走を選択したのは正解でした。
高天原温泉への行程
高天原温泉を目指す上でまず重要なのが、入山/下山地点をどこにするのかということ。
起点となる登山口は新穂高温泉や折立があり、ルートとしては裏銀座や槍ヶ岳からそのまま来ることもできるので選択肢は数多く存在します。今回は下記の通りの行程に決めました。
三俣山荘のテン場をベースにし、2日目は空身で高天原温泉を往復するプランです。3日目はそのままスタート地点の新穂高温泉に下山することで、その後の移動をスムーズにする感じ。
混雑を避けるために公共交通機関の利用を避けて自家用車による移動を選び、これによって上高地や槍ヶ岳方面から行くのは却下しました。日数的な制約もあるし、あの辺りはただでさえ観光客が多い地帯なのであまり近寄りたくない。
ところで、北アルプス周辺の山小屋はたとえテント泊であっても予約が必要なところが多いものの、槍ヶ岳や三俣山荘周辺に限るとテント泊は予約不要なところが多いです。三俣山荘もテント泊については予約不要で、これが今回の行程を決める上での決め手になりました。
というわけで早速出発。
三俣山荘を目指す
初日は新穂高温泉の駐車場に車を停め、ここから幕営地の三俣山荘までひたすら登っていくことになります。
実は登山開始までも紆余曲折あって、最初は無料駐車場に停めようとしたら満車だったので一旦鍋平の無料駐車場で仮眠し、新穂高温泉周辺で一番安い有料駐車場(新穂高センター前のやつ、1,000円/日)のゲートが開く午前3時に起きてそこに停めました。
もともとこの日の登山開始予定時刻は午前3時だったので結果オーライという感じ。
この日の天気予報は午前中が曇りで、昼からは晴れるとのこと。
数日前に確認したときは午前中が雨予報だったので、良い方向に天気が転んでくれて助かりました。景色的な本番は明日とはいえ、雨の中を歩くのはかなり虚無になる。
道中は真っ暗で見れたものではないのでバッサリすっ飛ばして、11:30に三俣山荘に到着。
テント泊登山をするのは一ヶ月ぶりとなりますが、今回は3日分の食料やら酒やら、あと酒のつまみやらが荷物に含まれているのでかなり重く感じました。
前回ここに来たのは2年前で、あのときは立山室堂から縦走してきて同じようにテント泊してました。雨の中で幕営作業をしたのはいい思い出です。
いつものように幕営をちゃっちゃと済ませる。
三俣山荘は黒部五郎岳や鷲羽岳、さらに先ほど述べたように槍ヶ岳方面へのアクセスもいいため、ここにテントを張っておいて、空身でそれらの山々に登りに行くというベースキャンプ的な役割で利用する人が多いです。
4連休の2日目であるこの日ならなおさらテントの数は相当多いだろうなと思っていたのですが、果たしてそのとおりでした。午前中に到着したにも関わらずテン場はすでに8割ほど埋まっており、たまたま広い場所を発見できたのは運がいいと言えます。
この状況を予め予測して出発時間を午前3時に決定したので、予想通りの結果になってニンマリ。やはりテン場には早い時間に着くに限る。
テントを張ってからはもう気楽そのもの。
今日はもうやることないし、明日向かうことになる雲ノ平への道筋を確認したり、三俣山荘周辺を散策したりしてました。
山小屋でのコロナ対策ってかなり大変だと思います。
普段は全然知らない人と隣り合って寝るといういわば雑魚寝みたいな三密空間になるわけで、そこを改善しようとすると宿泊者数を減らして一人あたりのスペースを広げるしかないようです。
マスクやアルコール消毒は当然として、物理的に泊まれる人数が減るのは山小屋にとっては経営的にかなりのダメージ。
南アルプスだけでなく、北アルプスでも今年度は営業を停止している山小屋もある中で、普段通りテント泊できる環境があるのはとてもありがたいです。
ちょうどお昼時になったので、山荘の食堂で昼食をとりました。
三俣山荘の食堂はメニュー数が多く、さらにコーヒーの味には定評があります。また、夜になるとジビエシチュー(宿泊者だけかも)やワイン、焼酎などお酒類についても多く取り揃えており、山での数少ない娯楽である「グルメ」を満喫できる面白い山小屋です。
山での食事は基本的にアルファ米とかレトルトとかが中心になり、凝った料理を作ろうとすると結構大変だったりするので、手軽に美味しいものを食べられる山小屋の食堂は大変ありがたい。
特にこの季節になると肌寒くなるし、暖かい食事は本当に美味しく感じられます。
美味しそうな気がしたので鶏白湯(とりぱいたん)を注文してみる。
鶏肉が入ったスープと白米の湯気が食欲をそそり、その旨さが今日の疲れを瞬時に癒やしてくれた。スープを一口すする度に微笑みがこぼれてくるようで、そこに白米の味が加わるともう堪えられない。大変おいしゅうございました。
自分は自炊をするのは夕食に限定していて、昼食はこうして山小屋の食堂を利用するようにしています。行動食だけだと物足りないし、昼食の分も担いで登ってくればいい話なんだけど、せっかくだから山でも美味しいものを食べたい。
以前は登山時に三食とも棒ラーメン(しかも同じ味)を食べていた時期があって、荷物削減とお金節約のためとはいえ、いくらなんでも極限すぎる食生活だったので今のスタイルに変えました。
テントへ戻る際にも他の人のテントをチラ見したり、何しろ暇なのであれこれやってました。
天気予報通り昼からは快晴になってくれて、時間にも余裕あるし目の前の鷲羽岳に登ってこようかな?とか考えたりもしたけど、どっちみち明日登るのでやめときました。
夏山だと昼過ぎたらガスが上ってきて真っ白になることが多くて、昼になってもここまでいい天気になると秋の到来を感じます。
テントに戻ってきました。
ここでちょっとテント泊の利点の話をすると、パーソナルスペースを十二分に確保できるのが良い。
他の人の居住区域とはしっかり区別されていて、この中にいる限りは自分は無敵!と勘違いしてしまう。前室をフルオープンにすれば適度に風が入ってくるので涼しいし、何より鷲羽岳を眺めながら昼寝ができるのが最高すぎる。
小屋泊だとプライバシーが色々皆無なので自分はテント泊の方が好きです。
時刻が16時くらいになってくるとテン場に到着する人も多くなって、午前中の時点で8割方埋まってたテン場はもう難民キャンプ状態になってました。
人間一人分がようやく横になれるスペースにテントを張っている人もいるし、岩ばっかりだったり傾斜してたりするところに仕方なしに張らざるをえないようです。
さすがに寝るときくらいは人権がある場所で寝たいよな…とか思いながらこの日は18時頃に寝ました。
雲ノ平から高天原温泉へ
むくり。
翌日目を覚ましたのは深夜3時。久しぶりにシュラフで寝たら全く眠れなくて、ほぼ3時間おきくらいに起きてしまう始末でした。シュラフで快眠できる方法って何かあるのだろうか?
もちろん耳栓は付けているけど、シュラフ特有の寝返りの打てなさが睡眠を阻害してしまう。
今日はいよいよ高天原温泉を目指していきます。
三俣山荘から直接高天原温泉に行っても良いのですが、それだとつまらないので最初に雲ノ平を散策することにしました。まずは三俣山荘から一気に黒部源流へ下り、そこから急登を上って雲ノ平方面へ歩いていきます。
「黒部川水源地」の碑の通り、ここから流れ出た水が川となって黒部ダムに流れていき、さらには下ノ廊下を流れる激流へと変化していく。
黒部ダムを直に見たことがあればその巨大さには驚くと思うけど、そこから下流の下ノ廊下も実際に歩いたことがあるだけに、ここに到着したときの感動はかなりのものでした。こんな小さな小川が、最終的には宇奈月温泉の前を通って日本海に流れ出ていくわけですからね。
ここで水分補給を行い、黒部の源流をしっかり味わっておきました。
黒部源流からはそこそこの急登が続きますが、雲ノ平へ着いてしまえばアップダウンはそれほどありません。
到着した時点では辺り一面にガスが広がっていて、雲ノ平の名の通りの様相が見られました。
雲ノ平は標高2,500~2,700m付近にある、日本一標高の高い溶岩台地のことを指します。
そのアクセスの困難さから日本最後の秘境と呼ばれており、奥深い北アルプスの中にありながら草原が広がるなんとも不思議な場所。
ここまでの道のりのような急登や岩稜帯メインの道とは真反対のような静けさが漂っていて、ところどころに点在する池や花畑、突き出た火山岩、それにどこまでも続くような木道が広がっている様はさながら庭園のよう。
実際に雲ノ平の各所には「アラスカ庭園」「アルプス庭園」「スイス庭園」のように名がつけられた一帯があり、たくさんの高山植物が咲き誇る姿は、まさに雲の上の楽園そのものでした。
また、雲ノ平周辺には薬師岳や黒部五郎岳、赤牛岳、水晶岳、鷲羽岳といった名だたる名峰が連なっています。
単に歩いて異世界感を楽しむ以外にも、そんな高山を眺めながら散歩をするのもまた乙なもの。雲ノ平は台地なので全方位に見晴らしがよく、どの方角を見ても山が広がっている光景が楽しめます。
いいね。テンション上がってくる。
そんな雲ノ平散策をずっと続けたい気持ちもあったけど、流石に長居しすぎたのでそろそろ高天原温泉を目指すことにしました。
高天原温泉の標高は約2,100mなので、雲ノ平からは500mほどひたすら下っていくことになります。
最初の方はかなり岩が多くて歩きにくく、しかも途中からはずっと樹林帯が続くので視界も開けません。今回はこのルートは下りで使うだけだったものの、仮に折返して登ることになったらなかなかにしんどい思いをしたと思います。
高天原峠の分岐から先はそんな急斜面も多少は落ち着き、川沿い(岩苔小谷)を歩くこともありました。
それにしても、本当にこんな奥地に温泉があるのだろうかと不安になってくる。雲ノ平ですら秘境なのに、それよりさらに奥深い地にまで足を踏み入れている私は無事に帰ることができるのか、そんな不安が頭をよぎる。
果たして大丈夫なのか。
とかビクビクしながら歩を進めていると、途端に樹林帯を抜けて視界が開けました。
まるで雲ノ平を彷彿とさせるような湿地帯が広がり、草原の向こうには薬師岳が見える。どうやら高天原に到着したようです。
高天原から高天原山荘まではほんの5分ほど。
この高天原山荘は高天原温泉の最寄りにある山小屋で、小屋泊は可能ですがテント泊は不可です。なので、温泉を最大限に満喫したい場合はここに宿泊するのがベストかなと思います。
小屋自体も「静寂な高天原に発電機の騒音は似合わない」との理由から電気は通っておらず、明かりはランプのみとのこと。今度訪れるときはぜひとも泊まってみたいところです。
と、やっと文明を感じられる場所に着いてほっと一息つく前に、休憩は後にしてまずは温泉に入りに行く。
山荘から温泉まではすぐそこかと思いきや、20分(1kmくらい)歩くのでなかなかに大変でした。しかも全部下りなので帰りはずっと登らないといけなくて、さらにここまでの疲労もあるしで復路のことを考えると余計に疲れてくるというジレンマ。
でも、ここまで来ると帰りのことよりも「日本一遠い温泉とはどんな場所なんだろう?」という好奇心の方がはるかに勝っている。目的地はもうすぐそこなわけで、自然と歩く速度も速くなってくる。まだかな…。
!!!!!
その時は突然やってきた。
曲がり角を曲がったらさっきからずっと聞こえていた水音が一段と大きくなって、そのほとりには何か建物のようなものが見える。もしかして、ついに念願の高天原温泉に到着したのだろうか。
Part 2に続きます。
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