TAMAISM

旅の記録、宿泊先や行程とか

竜宮閣 熱海のレトロな温泉旅館に泊まってきた Part 1/2

熱海駅前徒歩3分

今回は、静岡県の東端・熱海に行ってきました。

熱海は静岡県における一大温泉地であり、神奈川県に接していて関東からのアクセスも良好なことから多くの人出がある観光地です。温泉だらけの伊豆半島の根っこに位置していることから、事前情報がなくても「温泉がありそうな場所」ということはなんとなく連想できそうなものですけど、なんといっても熱海といえば、その知名度の高さが有名じゃないでしょうか。

自分にとっては馴染みが薄い場所ですが、バブルの時代なんかは新婚旅行=熱海みたいなイメージも普通にあったと聞くくらいだし、本当に賑わいがすごかったそうですね。そんな熱海の町はバブル後に衰退が進んで廃墟が増えたものの、今ではまた活気が戻ってきたそうです。マンションも続々と建築されており、今風の新しい店も駅前を中心に出店しているとのこと。

なので、今現在の熱海は"古い建物と新しい建物がカオスに入り交じる町"というのが今回の訪問前の自分の予想であって、実際もそうでした。

今回宿泊した竜宮閣も、そんな熱海の町並みの一角にあります。

熱海駅を下車して、駅前の平和通り名店街を抜けた先。これから海沿いへ向けて道が傾斜をきつくし始めた矢先に竜宮閣はありました。

駅前からの所要時間はおよそ3分と非常に短く、宿泊だけでなく日帰り温泉で訪れる際にもアクセスが簡単だと思います。

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竜宮閣の外観。かなり古い建物だが、周りもそういう建物が多いので大きな違和感はない

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正面

まずは外観から。

熱海は山の斜面に形成された町なのでとにかく坂が多く、平地が少ないところです。従って、そこに建つ建物も傾斜地に順応したものになっており、分かりやすく言うとスペースを最大限に活用して、コンパクトにまとまることが優先されています。

この竜宮閣についてもそれが現れているような気がして、1階部分と2階部分の向きが若干ずれているのがわかりました。内部についても廊下と客室との距離が狭く、狭いところが好きな自分にとっては結構好きな造りだったり。

竜宮閣に宿泊する

まず最初に、竜宮閣の成り立ちについて。

竜宮閣の創業は昭和13年(1938年)。もともと旅館として始めたわけではなく、最初は蕎麦屋だったのをこの年に旅館に改築したそうです。当時は日中戦争による好景気に乗る形で工場労働者の利用が多かった熱海ですが、戦争が長引くにつれて工場労働者というよりは軍人の静養地としての役割が強くなってきました。

戦局が悪化を辿った昭和19年(1944年)には、熱海一帯の旅館は大都市からの学童疎開の地に指定され、周辺の伊豆山を含めて約4000人の児童を25軒の旅館で受け入れることになりました。この中で竜宮閣もまた受け入れを行い、児童たちは約10ヶ月のあいだをこの旅館で過ごしたそうです。

つまり竜宮閣は「戦前から残る旅館」ということになりますが、実は熱海ではこういう旅館はもうほとんど残っていません。そもそも空襲によって熱海の町並みは多くが焼けてしまったし、その後の(つい最近も含めて)再開発の波の影響によって、古いものは新しいものにどんどん置き換わっていったからです。なので、竜宮閣の存在自体が貴重そのものといっても過言ではありません。

以上が、竜宮閣の成り立ちです。

旅館としての形態は、自分が宿泊した時点では以下の通り。

  • 素泊まりのみ(この日の宿泊が自分一人だったかもしれんが)
  • 宿泊料金は入湯税含めて¥5,650
  • チェックインは13時から可能

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玄関。正面にあるのが蕎麦屋時代の受付で、今はもう使われていない。

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受付内部。当時はここに手回し式の電話が置かれていた

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玄関を建物内部から

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昔ながらの靴箱

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受付横は応接室になっており、普段はご主人と奥さんがここでテレビを眺めていた

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応接室内部。雑然としているがそれもまた良い

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応接室側から玄関方面を見る。正面は厨房になっている様子。

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旅館内に張られているこういう証を発見するのが好き

早速、玄関の引き戸を開けて屋内へ。

玄関横の応接室にはほぼすべての時間帯でご主人が控えられており、ここで名前を告げて投宿となりました。一応、建物の奥が住居になっているものの、竜宮閣は日帰り温泉も営業されているので、その受付も一緒にされているというわけです。

さっきもちらっと触れましたが、建物の随所に斜めな直線が現れているのがいいですね。限りある敷地内に建物をうまく配置する必要があるので、一般的な家屋のように直角だとか、長方形だとかにこだわってはいられない。玄関の戸と玄関土間がすでに平行じゃないし、そういう建物の特徴が見え隠れしているのが伺えて、なんか好きになりました。

旅館の構造としては3層に分かれていて、1階の玄関周辺には受付や応接室、厨房などがあり、客室は2階にあります。地下1階には2つの温泉があり、加えて客室もありましたが現在では使われていない感じでした。

1階を経て2階へ向かう

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1階奥に進んでいくと左手に地下1階への階段がある。正面がご主人たちの住居。右手奥が2階への階段

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地下1階への階段

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受付を横から

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堀辰雄の色紙。実はご主人の母上が、堀辰雄と再従姉弟という関係だそうです

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玄関方面を振り返る。右手が厨房

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亀が乗っている

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竜宮閣を訪れた著名人のサイン

そのまま奥へ進んでいくと、温泉がある地下1階への階段や2階への階段があります。

廊下の真正面の部屋から奥は生活感がある(気がする)ことから、詳しくは聞いてませんがご主人の生活スペースじゃないかと思います。玄関からだけではなくここからもテレビの音が漏れてたし。

で、2階へと続く階段の途中には結構な数のサインが飾られていました。

というのも、この竜宮閣は雑誌や映画の撮影の舞台としても使用されており、つまり非常に有名なところなんです。温泉についてはPart 2で述べますが、この雰囲気がまた良すぎてね。有名になるのも必然というところじゃないでしょうか。

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階段を上がって2階へ

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階段を上がると旅館の目の前の通りに面している。窓際には洗面所がある。

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建物奥側に客室が続いている。右側はトイレ。

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洗面所

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客室の壁

2階への階段を上がるとすぐそこが窓になっていて、目の前の通りを歩く観光客がよく見えます。

この日は晴れていて夏の到来を実感できるほど日差しが強かった一方で、自分が今いる旅館内は逆に暗くて、どこか静まり返っている。チェックインが13時から可能ということもありますが、この雰囲気の温度差もまた心地よく思えました。

それにしても、やはり木造というのがいい。

床も壁も天井も木がその大部分を占めているし、自分にとってはこういう旅館の方が合っている。

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この日泊まったのは建物裏手側に面する「月二號」の客室。客室自体の数が多いが、今ではここと隣の計2部屋しか使われていない。

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月二號の客室。広縁もあります。

さて、そのまま奥に進んで今回泊まることになる客室に到着。

階段を上がってすぐのところや、その後に通った廊下の左右にも客室はあるのですが、今現在メインで稼働している客室は2部屋とのことでした。他の部屋は雨が降ると雨漏りしてしまうらしく、この日も前日に降った雨の影響が出ている様子。

昔はこんなことは無かったのですが、これは隣に大きなマンションが新しく建てられたことにより風が吹く向きが変わってしまい、雨の通り道が縦方向ではなく横方向になったから。建物の側面には隙間があって、そこから雨が侵入してくる仕組みです。

先日起きた熱海の土砂崩れもそうですけど、これも一種の人災じゃないかなと思います。

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客室の広さは6畳で、設備としてはテレビやエアコンがあります

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広縁

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広縁からの眺め

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広縁から客室入り口方向を見る。床の間もコンパクトなのがかわいい

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古い建物では、コンセントの配線をどうしているかが個人的に見るポイントの一つ。こちらでは畳の下に通してました

そして、こちらがその客室の中。

6畳というちょうどいい広さに加えて、床の間や額縁があって居心地の良さは群を抜いています。客室内を通っている柱についても場所によって異なっており、古さも相まって非常に味がありました。

宿泊者が一夜を過ごすことになる客室は、広すぎてもいけないし狭すぎてもいけない。

ただ、これは単なる広さの問題ではないと自分は思っていて、なんというか「部屋全体がパーソナルスペースになっている」必要がある。パーソナルスペースの広さはもともと個人によって差があるし、旅館の雰囲気やその時々の気分によっても変わってくるので、その客室を訪れたときの第一印象が重要になる…というのが自分の考え。

そこへいくと、この竜宮閣の客室はとても落ち着ける。客室だけでなく広縁や押入れの感じ、壁にもたれかかったときの反力や視界に入ってくる光の明暗とかも含めて、ただここにいるだけで気分が静かになってくるようでした。

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客室奥にある謎の階段。これは一体…?

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正解は「海を眺めるための小部屋」でした

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小部屋には小さな椅子と机があるだけ。実にシンプルです。

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かつてはこの小部屋から相模湾が一望できたが、今では邪魔な建物が多い。一応、海は左の方に見えます

で、おそらく竜宮閣にしかないであろう空間がこの小部屋です。

客室から続く階段を上った先にある畳一畳ほどの部屋で、あるのは椅子と机、そして窓のみ。たぶん説明がないと自分もよく分からなかったと思いますが、これは海を見るための部屋でした。

竜宮閣が営業を始めた当時は周りに高い建物がなかったため、斜面に建っているここからは相模湾がよく見えたと言います。というか熱海自体が斜面にある町なので眺めがいいのは間違いなくて、昔から海を眺めながらまったり過ごす、というのを目当てにしていた人も少なくなかったと思います。この小部屋も、そうした目的から造られたものでした。

それから時代は変わり、熱海のあちこちには高い建物が次々と建てられた影響で景色は一変。今ではこの小部屋から見ることができる海もほんの一部だけになり、昔のままではないことを如実に実感することになりました。

昭和から平成、そして令和。変わるものもあるし、この竜宮閣のように変わらないものもある。この窓から景色を見ると、自分が今この旅館に泊まっていることがなんだか不思議に思えてくる。

というわけで、Part 2に続きます。